とことん「本質追求」コラム第590話 帰納法で商品を企画し、演繹法で販売戦略を構想する

 

「今年から発売している新商品が思うように売れません。市場全体は伸びているはずなのに…売り方が悪いのか、当社商品に問題があるのか…どちらだと思いますか?」

いま話題のDX(デジタルトランスフォーメーション)の波にのって、新たに開発したシステムが思うように売れずに困っているシステム会社の社長からの相談です。

・生産年齢人口の減少による構造的な労働力不足
・給与水準の社会的な上昇圧力
などを鑑みれば、どの企業においてもDX的な視点は必要だと認識できます。
システムの説明を聞いても、決して間違った方向性ではないと感じるのに、なぜか売れない…。

即答で判断できるほど、材料が揃っていないので、結論まで導きだすことは出来なかったため、本コラムで解決策を導きだす思考法を提示してみたいと思います。

まず「売りモノ」と「売り方」のどちらに原因があるのか、を特定する必要があります。

上述のような「売りモノ」の良否を判定するには、3つの視点で捉えるとクリアに問題点が浮き彫りになっていきます。

1つ目は、顧客利益(ベネフィット)と価格の相関関係
2つ目は、代替性や競合商品と比較した差別的優位性
3つ目は、業務プロセスとの親和性
の3つです。

なんだ…またいつもの論調か、と思われたかもしれませんが、今日は概念的説明ではなく、具体的な発想法からアプローチをしてみたいと思います。

上述のご相談でも「こんな顧客利益(ベネフィット)があるはずだ」と仮説を立てた上で事業化を進めていったそうです。

確かに、机上で考えるうえでは、確かなストーリーがありそうです。
・今、人材不足は深刻な状態になっている
・ある業界では、自動化システムの導入が進んでいる
→ならば、こんな自動化システムがあった方が便利なのではないか!

というアプローチで考えれば「市場性はある!」と判断してしまいがちです。

このように”ある前提”から考えると、こんな結論があるかも知れないという論理展開を「演繹法(えんえきほう)」と言いますが、この演繹法は今の時代には、そぐわない可能性が高いのです。

演繹法は、前提条件が変化しないときには、有効な方向性や回答が導きだせます。

しかし、前提条件が変化するときは、正しい結論にたどり着けません。
変化の激しい時代では、前提条件が変わる可能性がありますから、結論を誤って導き出すことが懸念されます。

変化とは消費者を取り巻く環境の全てです。
・法律の改定
・新たな研究成果の発表
・マスコミや社会が作り出した世の中の風潮
・代替案の発見
・競合商品の出現
などなど、消費行動に与える影響は、多岐にわたっています。
それらを全て消費者目線から確認することはほぼ不可能です。

となると、未来の顧客となり得る人々や企業を観察した上で、こんなニーズがあるかも知れない…と発想する「帰納法」の方が、正しい回答を導き出す可能性が高いことがわかります。

例えば、ある作業現場ではAという作業に平均2時間/日程度費やしている業界がある。
人手不足も深刻な業界で、外国人労働者の就業比率が前年比3割も増加してきている。

こういった事実から推測すると、年商1億〜10億円の中小企業は、悩ましい状態を抱えている可能性があるから、こんなシステムを開発したら、これだけの売上が得られるかも知れない…。
と、現場のファクト(真実)から、売れる商品を類推していく方法が「帰納法によるアプローチ」です。

観察やヒアリングをベースに事実を確定させていき、その事実からある法則を導き出すので、環境変化が織り込み済みです。
・ベネフィットの有無
・価値と価格の相関関係
・代替性や競合商品の特性
・業務プロセスとの親和性

「売りモノ」を企画する上で掌握すべき事柄のすべてを事前にキャッチできるのも「帰納法」によるアプローチのメリットとなります。

次に「売りモノ」は的を射ているのに、「売り方」が悪くて売れていないケースの検証法を見てみましょう
といっても、バラバラに分けて考えるべきものではありません。

売り方の検証は、売りモノが顧客にとって、どんな価値があるのか…それをちゃんとコミュニケートできているか否かを掌握することで見えてくるからです。
・コミュニケートする相手は、明確に定められているか
・その対象者に接触するルートは、的確か否か
・コミュニケートする内容は、相手の心を動かしているか
・発信する情報の信頼性は、感じられるか
・消費者の購買心理ブロックを理解し、ブロックを外す対策は講じられているか
これらのチェックポイントで見ていくと、漏れている箇所が必ずと言って良いほど、浮き彫りになったりするものです。

営業マンが介在するか、それともインターネットだけで販売を成立させるか否かなど、手段の問題を問わず、この5つのチェックポイントは大切です。

営業マンが介在する場合、全営業マンの共通認識や共通の営業ツールの有無で「売り方」の良否が判断できます。

このように整理すると、的確な「売り方」というのは、前提条件から導き出すことができるので、演繹法的なアプローチが有効であることがわかります。

つまり、帰納法で「商品のあり方」を捉え、演繹法で「売り方」を考えるアプローチが有効です。

「売りモノ」と「売り方」の両輪が噛み合った時に、売上は必然的に右肩あがりに上がっていきます。

御社は、売りモノと売り方の双方から、戦略・戦術の適正を判定していますでしょうか?

[著:藤冨雅則]