『先日のコラム“実在する顧客への貢献欲”というフレーズにビビッときました。これからのお客様をどう実在として捉えられるか、助言を貰えると嬉しいです』
先週のコラムを読んだ読者さんから、質問メールをもらいました。
この場を借りて、お返事したいと思います。
『顧客を知る』は、経営の要所として広く知られています。
ただ、非常にわかりやすい言葉だけに、間違った解釈の余地が生まれやすいと感じています。
典型例が『こんな商品があったら、貴方は欲しいですか?』と聞くパターンです。
欲しい…と言ったら、その商品は売れ、欲しくないと言ったら売れない。
「お客様に確認したから、間違いない」と、顧客を知ったつもりになっている例が、典型的な間違った解釈になります。
お客様には、様々なお客様がいます。
同じお客様でも、置かれた環境が変われば、判断や評価も変わります。
我々の強みが、「あるお客様」にとっての価値となるのか?
そこを追求するのが、顧客への貢献欲とつながっていくわけです。
マーケティング的に言えば、これが本質的なターゲッティングという概念なのです。
例を挙げましょう。
ある和菓子屋さんがありました。
店主は、3代目で祖父も父も和菓子職人です。
家系の影響もあって和菓子を通じて、人々に幸せになってもらいたい…と、心の底から思っているピュアな精神の持ち主です。
そんな店主が、お客さんから「ここのドラ焼は美味しいですね」と言われれば、「喜んでくれて良かった!」と人の幸せを素直に喜ぶことができます。
お客様の笑顔を見ることができれば「やり甲斐」を感じるし、“実在する顧客への貢献欲”も満たされるでしょう。
この状態で、店が回らないほどお客様が殺到していれば、全くもって問題ありません。
しかし、売上を更に上げる必要がある場合「お客様に貢献する」という姿勢を見直す必要があります。
なぜなら、自分が感じる美味しいと、お客様が感じる美味しいに、ギャップがある可能性が高いからです。
ギャップがあれば、真摯に向き合わないと、適切な経営努力ができなくなります。
ものすごく重要な視点なので、掘り下げて考えてみたいと思います。
そもそも美味しいという価値は「捉えどころのない価値」です。
ある人にとっては「美味しい」と思える和菓子でも、ある人にとっては「甘すぎる」と敬遠されるかも知れません。
たとえ、万人受けするレシピがあっても、隣町にもっと美味しい和菓子屋ができれば、美味しいお店と評価されなくなります。
美味しいという主観的な感覚は、非常に頼りなく、捉えどころがないものなのです。
何を持って美味しいと定義するのか…明確な定義がなければ、お客様の笑顔に貢献しようと思っても肩透かしをくらってお終いです。
もちろん天才的な職人であれば、曖昧な世界のなかでも、誰も味わったことない和菓子を創作し、人々を魅了できるかも知れません。
そこで勝負をしたければ、道を極めるのも、もちろんアリです。
しかし、同じ土俵で戦うことに捉われる必要もありません。
なぜなら、そもそも論として、お客様は和菓子に「絶対的な美味しさ」を求めていない人の方が、圧倒的大多数だからです。
ちょっと考えてみましょう。
甘党でない方でも、一度は和菓子を購入した経験があると思います。
何を期待し、和菓子を購入しましたか?
ある人は、お世話になった方への贈り物かも知れません。
ある人は、来客に備えたおもてなしで購入したかも知れません。
ある人は、特別な日におくるプレゼントとして購入したのかも知れません。
また、誰かのために…でなく、個人的な商品においても、様々な購入理由があるはずです。
・自分へのご褒美として…
・洋菓子は躊躇するけど、和菓子なら許容できるから…
・綺麗だからSNSにアップしたくて…
・手に届く高級品を味わってみたくて…
などなど、様々な購買動機があることがわかります。
それぞれに確かな欲望があり、満足があるのです。
美味しさを求めるお客様以外にも、たくさんの実在するお客様がいるわけです。
10通りのお客様の欲望があれば、満足するポイントもそれぞれ違います。
我々は、どのようなお客様にどのような満足を感じてもらいたいのか?
これを楽しんで追求したい!という気持ちが「実在する顧客への貢献欲」だと定義できます。
東京の桜新町に「タケノとおはぎ」というお店があります。
ブリザードフラワーを彷彿させるような「見惚れるような”おはぎ”の詰め合わせ」を販売しているお店です。
東急田園都市線で各駅停車しか止まらないローカルな駅から、徒歩8分も歩く不便な立地ながら、開店前から長蛇の列ができるほどの繁盛店です。
「タケノとおはぎ」の行列に並ぶ人は、何を求めているのでしょうか?
その答えを探究する姿勢が、実在するお客様の貢献欲と密接にリンクしています。
あなたは、顧客への貢献欲を突き詰めて考えたことはありますか?
[著:藤冨雅則]