「これまでいくつかの新規事業に挑んできましたが、うまくいった試しがありません。イケそうなアイデアは今でもあるのですが…ちょっと自信がありません。コンサルティングをお願いできないでしょうか?」
お問い合わせを頂き、これから取り組むプロジェクトになりそうですが、新規事業の成功確率を高める方法を覚書として残しておきたいと思います。
あるある事例ですが…
✔︎ 当社の強みを生かした新商品を開発できないか?
✔︎ 社員が活躍できる事業アイデアは何か?
✔︎ 今あるリソースを使って儲かる事業アイデアはあるか?
そういった思考回路をもって、新商品開発や新事業アイデアを創案されるケースが非常に多いのですが、残念ながら、このようなアプローチだけでは成功しません。
理由はシンプルです。
普段、「どことん本質追求コラム」を読んでいるあなたなら、すでにお分かりの通り。
新規事業が成功する最大のポイントである「顧客からの視点」がどこにも入っていないためです。
当社の強みは何か?
多くのビジネスマンが知っている「重要な問い」ですが、顧客にとっての「売り手の強み」なんて全くもって興味ありません。
「強み」を「お客様のベネフィット」に変換させて、はじめて顧客の興味を惹きつけることができるようになります。
社員が活躍できる舞台?
それも顧客にとっては知ったこっちゃありません。
仕事があるから、人が必要なのであって、人がいるから仕事を作らなきゃいけないという発想は本末転倒です。
もちろん、雇用を生み出す!という社会貢献的な考えは、とても大切です。
それでも、価値ある仕事が創出できるから、雇用が生まれるのであって、その逆はありません。
わかった、わかった…
それは知っているよ。という声が聞こえてきそうです。
しかし、知っていることと、出来ることは違います。
知っていても、脊髄にまで浸透していないと、大切な顧客視点がブレてしまうのです。
新規事業は「センミツ」…つまり1000のアイデアのうち、3つしか成功しない!と言われる難易度の高い仕事。
その大きな失敗理由は、顧客が見えていないからです。
顧客を知るためには、4つの資質が必要です。
一つ目は「好奇心」です。
顧客がもっと喜び、感激し、満足するポイントを知りたい、という好奇心がなければ、顧客を理解することはできません。
それに好奇心がないと、2つ目の資質である「洞察力」も鈍ります。
好奇心があるからこそ、顧客の真の満足を発見する洞察力が鋭くなるのです。
洞察力をつけるよう!と言われても、そもそも論として好奇心がなければ、洞察力は鋭くなりません。
3つ目は「共鳴力」です。
顧客(または想定顧客)の課題や満足できない現状に共感し、どうやったら解決できるか?
顧客の立場になって物事を考えることができる共鳴力が、売れるアイデアの源泉となります。
最後の4つ目は「胆力」です。
顧客(または想定顧客)に共鳴し、こんな機能・性能、技術や商品またはサービスがあったら良いのに…という発想をしても行動に移さなければ、カタチにはなりません。
カタチにする過程で、様々な障害にぶち当たります。
さらに、製品化に成功しても、販売で商談相手を説得するための交渉にも骨が折れます。
製品化から販売までの難行苦行を遂行するためには、「胆力」が必要です。
「好奇心」を土台にした「洞察力」「共鳴力」「胆力」…。
この4要素は、1964年にスイスで創設されたグローバル経営コンサルティングファーム「エゴンゼンダー」が開発した人のポテンシャルを分解したモデルです。
人間の潜在能力を要素分解したモデルですが、これは、企業のポテンシャルを測る指標ともなり得ると感じました。
キーエンスが粗利80%以上の商談を絶対基準としているのは、全ての営業マン…と言うよりは、組織そのものが、このポテンシャルを有していると分析できます。
少し考えてみてください。
粗利80%以上を確保することを公言している会社から商談を受けた場合、あなたならどう交渉しますか?
「そんなに儲けているなら、ちょっとは負けてよ」と言いませんか?
でも彼らは値引きには応じません。
キーエンスの決算書を見れば、それが明らかになっています。
なぜ、全営業マンが粗利80%以上の商談を厳守できるのか?
それは彼らの交渉術がカギを握っています。
彼らは、粗利80%を維持している…という現実を顧客に認識させていません。
「商談相手の現状を理解した上で、キーエンスの提案をのめば、●●万円のコストダウンができる。提案価格は、その半分です」
とお互いフィフティ・フィフティ(50:50)になる提案をしているのです。
コストダウンは希望的観測ではありません。約束です。
それだけ自信をもって提案を受ければ、商談相手は受け入れざるを得ません。
キーエンスの強さは、顧客以上に顧客の課題を理解した提案をしていることです。
それが成し得るのは商談相手に対して「好奇心」を持っていること。
そして、「洞察力」をもって課題を見つけ
「共鳴力」をもって、課題解決案を企画し
「胆力」をもって、製品化から販売までの実務を遂行していること。
これが組織の仕組みとして機能していることが、キーエンスのポテンシャルだと分析できます。
御社は、顧客以上に顧客のことを理解した提案をしているでしょうか?