『意識の高さ』を持ち合わせた活力ある人材は育てるものではなく、採用するものなの…前回のコラムは、確かに元も子もない話でした。つまり、結論としては、組織を変えることはできないと言うことでしょうか?」
コラムの読者さんから質問を受けました。
何やら、製造業の基本であるQCD(品質(Quality)・コスト(Cost)・納期(Delivery)を幹部クラスの社員までも理解できていない…とお悩みのご様子。
顧客が期待する品質を提供できないと、どうなるのか。
納期を守らない会社の末路は、どうなるのか。
その推測すら幹部社員ができないのは、正直驚きますが…
QCDは、企業の持続的成長の基礎的条件なので、何とかしなくてはなりません。
今日のコラムは、顧客を失いかねない危うい組織風土をどう変えるのか? 藤冨の専門分野ではないものの、より良い営業活動をするための前提条件となる故に、解説をしてみようと思います。
まず、品質について。
事業を持続的に安定・成長させるためには「商品・サービスを通じて、顧客にベネフィットを提供すること」が大前提です。
マーケティングや営業では、特定のターゲットに向けて、あるベネフィットが享受できることをコミュニケートするので、顧客は「期待」をするわけです。
期待が満たされれば、満足を勝ち取り、リピートや口コミにつながります。
反面、期待を裏切られると、クレームや悪評をばら撒かれるリスクがでてきます。
品質とは、顧客の期待を裏切らないこと。
つまり、営業環境をより良く保つための大前提となるわけです。
コストは、競合他社の商品サービスよりも、利益体質が高ければ、当然ながら競争力が生まれます。
利益は、「給与」「次なる商品開発の原資」となりますし、営業ではコンペに勝つための値引き幅を提供してくれます。
これも営業環境を維持・向上するためには、重要な視点となります。
納期においては、商品分野によっては致命的な信用喪失につながる極めて重大な問題を引き起こす可能性があります。
例えば、部品メーカーが、組み立てメーカーへの納期が遅れたばかりに、発売日時が遅延し、資金繰りをショートさせてしまう事故が起きるなど…です。
このようにQCDは「顧客からの信頼と支持」に直結しているので、製造現場だけでなく、営業やマーケティング…事業全体に関わるテーマと認識する必要があります。
その重要性が認識できないのは、はっきり言って管理職失格と言わざるを得ません。
社員のプライドと、顧客からの信頼。
天秤にかけるまでもありません。
降格は、瞬間的には社員のプライドを傷つけます。
でも、このピンチを次なる成長のキッカケにできた社員からは、結果的には感謝されます。
そう信じて英断するのも、経営者の重要な任務なのではないでしょうか?
わかっちゃいるけど、それを実行できないから困っている…という方もいるでしょう。
なので、具体的なアプローチ方法をご提案します。
同じような悩みを抱えている経営者は、おそらく多数いらっしゃると思いますので、ぜひいずれかにトライしてみてください。
具体的なアプローチを一言で言うと「組織の風土革命を起こす」のです。
山本七平氏が「空気の研究」で指摘した通り「日本人は空気に支配され意思決定をする」傾向が強いです。
したがって、悪癖が染み付いた組織を変えるには、「組織の常識(空気感)」を「あるべき経営の常識(空気感)」に塗り替えることが有効です。
やり方は、2つあります。
一つは「あるべき姿」を神として崇めるのです。
先日、大阪芸術大学で客員教授を務める岡田斗司夫氏が、サピエンス全史の評論をしていたYouTubeで、そのアプローチの有効性を示唆していました。
組織を束ねる方法として「虚構」と「噂話」が有効である…とするアプローチです。
我々ホモサピエンスは、人類のあらゆる種別を駆逐して生き残ってきたそうですが、それを可能にしたのが、認知革命だったそうです。
認知革命は、おおよそ7万年前から1万年前の間に起こったとされる、ホモ・サピエンス(現代人)の進化における重要な段階の一つです。
この認知革命によって、自分たちよりも知能も運動能力も優れていたとされるネアンデルタール人を壊滅させたのでは…との有望な仮説が浮上しています。
人類に限らず、力の弱い生物は「群れ(組織)」をつくって、生命や種を守ります。
チンパンジーは20〜50頭
ネアンデルタール人は、150人程度の群れをつくっていたそうですが、群れには人数の上限があるとされています。
社会学でいう「ダンバー数」と言われる概念で、意思統一できる限界値がそれぞれの種別によって規定されているとのこと。
当然、我々ホモ・サピエンスにもダンバー数はあったのですが、その上限を取っ払ったのが、「噂話」と「虚構」という概念だったのです。
前回のコラムでもお伝えしましたが、戦前は日本人全員が「天皇は天照大神の子孫(噂話)である」と信じていました。
聖戦で殉職(死)しても、天国に行ける、神に近づける、という「虚構」が死ぬまで闘う兵隊を生み出した原動力となりました。
この「噂話」と「虚構」は、生物学的な群れの上限人数を超えて、組織化することができ、かつ強固な結束力を生み出すことを可能にしました。
この事実を、企業経営に置き換えてみます。
「品質を軽視する」「納期を守らない」こういった怠慢な姿は、「あるべき姿(虚構)」に反し、必ず天罰が下る(噂話)というストーリーを徹底的に刷り込むことで、組織風土を変えるのです。
ちょっと宗教っぽいアプローチですが、ビジョナリーカンパニーでも指摘していたように、変化に対応し続け生き延びた社歴の長い「卓越した企業」は、押し並べて「宗教的」であった…との研究結果が示されています。
個人的には宗教とは縁遠い性格をしていますが、それでも、顧客のベネフィットを満たすことを「絶対的(あるべき姿)」として位置付けるのなら、強い信仰心を持っていると自負しています。
これが「あるべき姿」を神として崇めることで、社風を変えることができるアプローチの一つ目です。
二つ目は、実を伴う「取締役会」を最高意思決定機関とするアプローチです。
トップが変われば、組織が変わることは、周知の事実ですが…
このトップの概念を変更してしまうことが有効です。
具体的には最終意思決定機関を「社長」ではなく、「取締役会」にしてしまうのです。
そんなのアタリマエじゃないか…と言われそうです。
だって、おそらく全ての会社の定款には、そう書かれているからです。
しかし、多くの企業では「取締役会」は形式的で機能していないことがほとんど。
なので、この形式的な取締役会を、機能させることで、トップの方針を見える化し、合理的判断に基づいた施策が打たれていることを全社員に浸透させるのです。
この際、社内の取締役だけでは、革新を起こしにくいので、社外取締役を入れることも有効です。
ソフトバンクを率いる孫正義さんも、社外取締役の重要性を指摘しています。
社内の風土改革は簡単ではありませんが、実現不可能なことでもありません。
御社は、組織の風土改革の必要性を感じていますか?
感じていたら、実行可能な案を具現化し、実行に移していますか?