「よく徹底的にパクることが大事…と、主張している人もいます。藤冨さんは、なぜいけないと思うのでしょうか?」
先日のコラムを読んで、ご質問を頂きましたので、この場を持ってご回答させて頂きます。
まず、3つの前提を抑えた上で、詳細にお話ししたいと思います。
一つは、業界シェアトップクラスの企業が、感性の鋭いベンチャーのモロパクリをして、出る杭を叩きのめす戦略としては「アリ」だと考えていることです。もちろん、個人的には軽蔑してみていますが、まぁ戦略として正しいかな…と思っています。
二つ目は、コトラーの戦略論で言われている「マーケットフォロワー」の戦略は【古い考え】なのでは…と思っているためです。
そして、三つ目は、マズロー が提唱した【自己実現】の考え方に深くコミットしているためです。
1は、個人的には全く興味がないので割愛したいと思います。
お話ししたいことは、2と3です。
順を追って解説したいと思います。
まずコ2のコトラーの戦略論で言われている「マーケットフォロワー」の戦略は【古い考え】なのでは…と思う理由ですが、彼が提唱した時代と現代では【競争環境】と【買い手を取り巻く環境】が著しく変化し前提が崩れていると思うためです。
誰もが実感している通り、現代は市場が成熟し「市場全体のパイ」が広がっていません。
市場のパイが縮小する中、さらに競争環境は激化しています。
直接競合のみならず、間接競合による代替案も乱立し、買い手の選択肢は広がるばかり。
さらにネットの出現によって、買い手のリサーチ力は高まっているので、多くの業界では激しい競争環境に置かれているはずです。
日本のセブンイレブンを最強の小売りチェーンに育て上げた鈴木敏文氏は、数年前に「消費者ニーズが多様化したと一般的には言われています。しかし私はそう捉えてません。変化が激しいために、多様化しているように見えるだけなのです」と何かの記事か書籍に書かれていたのを記憶しています。
現実は、テレビ、YouTube、アマプラなど生活を取り巻く環境からインプットされる情報が多様化しているので、価値観も多様化しているはずだ、と藤冨は捉えていますが…
それでも変化が激しいから多様化しているように見える…と現場の商品販売動向から考察した視点は、非常に鋭いものだと感銘を受けています。
ここから何を教訓として読み取るかが大事です。
売れ筋があまり変化しない世の中では「柳の下の二匹目のドジョウを狙う」ことができます。
しかし、今や多くの業界では、変化が激しく柳の下に、二匹目のドジョウがいないことが多くなってきました。
つまり、変化の激しい時代では、商品のライフサイクルが短縮化されるため、模倣戦略は効果を発揮しないばかりか、一過性の成果しか得られない時代に突入していると解釈できます。
これが、藤冨がマーケットフォロワーの模倣戦略を懐疑的に見ている理由です。
三つ目は、マズロー が提唱した【自己実現】の考え方にコミットしているからこそ模倣戦略を否定的に見ている点について解説したいと思います。
本コラムでも何度かお伝えしている通り、マズロー の「完全なる経営」では、自己実現とは、利己と利他の二分法が解消された姿であると定義されていました。
つまり「誰かに貢献する活動によって、自らの利益になる」という視点です。
今や飛ぶ鳥を落とす勢いのあるキーエンス社は、まさに自己実現を体感できる場として機能していると藤冨は考察しています。
同社は、売上総利益率80%と製造業ではありえない高付加価値商品の営業を成功させています。
ちょっと考えてみて欲しいのですが、普通、粗利80%だと公言されてしまうと、顧客から「もっと値引きしてよ!」と言われそうなものです。
それでも、値引きせずに強気の営業を支えているのは、営業マンの口が上手いわけでも、鉄の様なハートをもっているからでもありません。
キーエンスでは、顧客の利益をどれだけ増やせるか?を追求する営業活動をしているからこそ、パワフルな交渉を全営業マンが実践できているのです。
具体的にイメージしてみましょう。
同社は、10万円の原価がかかる商品だから、80%の粗利が必要だから売価は50万円にしよう。という発想はしません。
「この商品を導入すれば、100万円のコスト削減を約束します。なので、その半分の50万円を頂けませんか?」と、顧客と対等な姿勢で営業しているから強い営業が実践できるのです。
一方、模倣戦略は、お客様視点が抜けているケースが大半。
自分が儲かりたいから、先行者のモノマネをしているだけなのではないでしょうか?
もし、その推定が当たっているとしたら、そこに「利他」の精神は宿っているのでしょうか?
もちろん、先行者よりも安くするからお客様に貢献しているはずだ!という主張はあると思います。
しかし、それでも疑問が残ります。
本質的に安くする…という発想は、本当に顧客の利益に直結するのでしょうか?
本質を掘り下げて考えてみると、顧客は単に安い価格で商品やサービスを手に入れるだけではなく、満足の追求やさらなる問題解決を望んでいるはずです。
キーエンスの成功例から学ぶと、その真意が理解できると思います。
「我々にしかできない提案です。このコストダウン計画は、私にお任せください!」
と正々堂々と言える営業マンは、まさに「利己と利他の二分法が解消された姿」を追求した姿勢だと感じとれます。
先述の鈴木敏文氏も社員に対し、「競合のコンビニを視察するな!」と通達を出していました。
なぜなら、模倣する習慣が身につくと、顧客を見落とす可能性があるからです。
藤冨がTTP(徹底的にパクる)…つまり模倣戦略を否定するのは、以上の2つの視点から考察しているためです。
ちょっとした成功者の意見を無防備に取り込むのは危険極まりないとも藤冨は感じています。
自分の頭で、どのような価値を創造しどのような利益をお客様に享受してもらうのか…
徹底的(T)に考え抜く(K)ことで、本当の自己実現(J)への道へとつながるのではないでしょうか?
藤冨は、TTPではなく、TKJを推奨します。
御社は、TKJを基本軸とした仕事に推し進めてみませんか?