とことん「本質追求」コラム第556話 屍を生産する損害…「埋没コスト」を正しく理解する

 

『ここは、勇気ある撤退の決断をしましょう』

先日のコンサルティング現場で、新規事業計画を断念せざるを得ない『ある現実』を突きつけられ、プロジェクトを惜しくも中断する決断を行いました。

そのある現実とは、想定見込客へのインタビュー調査。

当初、この事業アイデアは、マネタイズ出来るかも♪
と心躍らせながら、プロジェクトをスタートさせたのですが…

我々が考えたアイデアを想定見込客は、本当に欲しいと思うのか?
どんな機能だったら、自分たちにとっての利益だと感じるのか?
そして、本当にお金を払うのか?

確証を得るために、7人のサンプル(調査対象者)を集めて、商品コンセプトの受容調査を行ったところ、当初想定していなかった競合がわんさか出てきてしまったのです。

商品・サービスという切り口から見ると、直接競合はゼロ。
しかし、顧客視点から見ると、同じベネフィットを提供している商品・サービス(または代替案)は、全て競合となります。

エステサロン と美容外科は、市場から見れば競合関係にある。
レストランとコンビニ弁当も、市場から見れば、競合関係にある。

強力な間接競合(代替案)が存在する場合には、それ以上に自社商品に乗り換えてもらうだけの魅力を打ち出せない限り、勝ち目はありません。

これは、BtoBビジネスであれば、ピンポイントで市場を切り崩すこともできるので、突破口を見つけられる可能性がありますが…
BtoCの場合、自社ブランドの優位性を訴求するためのマーケティングコストを莫大に用意しなければ戦えない市場もあります。
先行採用されている代替案の「満足度」によって変わってきますが、甘く見ると手痛い火傷をします。

前回のコラムでもお伝えした通り、屍を生産する損害…つまり埋没コストは、想像以上に大きいことをことを、しかと理解しておくことが大事です。

埋没コストとは、事業の撤退・縮小・中止をしても取り返し不可能な時間的・労力的・金銭的なコストをいいます。
起業家や経営者は、イケイケドンドンの方が多いので、軽視しがちですが、事業の成功確度は事前に必ず検証すべきです。

事業プロセスの上流であればあるほど傷口は浅く済みます。

冒頭のプロジェクトは、構想段階での撤退なので、ほぼ無傷。
一見すると残念な結果に見えますが、莫大な埋没コストを回避した…つまり将来の損失を回避した!と言う観点からは、最善策の意思決定をしたと判断することができます。

と言うのも、埋没コストは、事業プロセスの下流に行けば行くほど、後戻りにしくくなり、損失が膨らんでいくからです。

有名な話が「コンコルド効果」です。

超音速旅客機「コンコルド」は、1956年に構想をぶち上げ、藤冨が生まれた年の1969年に人類初の音速を超えたスピード飛行を実現。
しかし、莫大な開発費と燃費の悪さによる収益性の低さや、音速で飛行する騒音等により、当初から事業化困難だと予想されていました。
それでもズルズルと試験運用と開発を進め、2003年の事業化断念までの47年間、数兆円にも上る埋没コストを生み出してしまったと言われています。
投資を継続することが、将来莫大な損失につながると分かっていても、それまでに費やした労力、資金などを惜しんで投資がやめられない心理現象の代表的な事例となってしまったのです。

私たちも同じ轍を踏まないためにも、事業プロセス毎に堰(せき)を設けて、事業化の可能性を検証する必要があります

事業プロセス毎の堰は、主に4つあると藤冨は考えます。

1.商品企画
2.商品開発
3.マーケティングプラン
4.営業展開

です。
川上での失敗は、事業プロセスが進めば進むほどの埋没コストは膨らみます。
商品企画の段階でミスっているのに、営業をし始めてから、あれ?売れない…と気づいても後の祭り。

・商品企画や開発にかけた労力やコスト
・パッケージなどのデザイン・印刷コスト
・価格設定のミスによるあらゆる
・チラシやホームページ制作費用
・広告宣伝費やPR費用
・営業部門の人件費や交通費などなど…

営業段階で商品企画のミスに気づくと、大きな埋没コストに目をふせたくなる現実を目の当たりにさせられます。

企画段階での失敗は、その時点で「勇気ある撤退」をすれば、無駄な開発費用は発生しません。
開発段階で事業化できないと分かれば、無駄な商品化コストやマーケティングコストを抑制できます。
マーケティング 段階でのミスを営業展開前に気づけば、無駄な営業の人件費や交通費を抑止できます。

このように整理すると、川上でミスに気づくことができれば、それだけ将来に発生する損失を抑止できることに気づかれます。

・企画段階での「商品コンプセプト」は、市場に歓迎され、売上を伸ばせるのか
・開発段階では、コンセプトの構想通り、モノレベルで、消費者満足を実感してもらえるのか
・マーケティング段階では、コンセプト通りにネーミング、パッケージ、価格、販路政策が整っているのか
・営業段階では、コンセプトに従ったセールス活動が実行できるているのか

全ての事業プロセスが、川上である「コンセプト」と連動しています。

どの事業プロセスにおいても、市場とのミスマッチを起こす可能性が大きいです。
従って、事業プロセス毎に市場から受け入れられるか否かのチェックをし、出来る限りの埋没コストを抑制する姿勢が必要です。

この姿勢を意識することで、将来発生する無駄な経費を抑制するだけでなく、市場との対話を意識できるようになるため「社会に必要な資産」を生み出す体制ができていきます。

御社は、事業プロセス毎に、市場との対話を行う「堰」を設けていますか?