とことん「本質追求」コラム第553話 参入してはいけないブルーオーシャン市場の特性とは

 

「ブルーオーシャン市場の新商品を思いついたんです!こんな商品なのですが…どうでしょうか?』

ちょうど新規事業を計画していた所に先週のコラムが届き、勉強になりました…と以前プロジェクトをご一緒した企業の社長から連絡が入りました。
伺えば、確かに今までになさそうな新商品。

「波及営業をやりたいから、また手伝ってほしい」と、ご依頼を頂きましたが、ちょっと待てよ…とブレーキがかかりました。
すぐさまネットで競合になりそうな商品をさまざまなキーワードを使って検索したところ、確かにプルオーシャンのようです。
しかし、嫌な予感が的中しそうです。

なぜなら、もし本気でこの商品を利益ベースに乗せたいと思うのなら、それなりの投資が必要だと感じたからです。
伺えば、今回の新商品は、どうなるか分からないので、投資は控えたいとのこと。
「なるほど、やっぱりそうか…」と思い、そのアイデアは一旦保留にした方が良いですよ、と助言しました。

理由は、嗜好品っぽい新商品を普及させるには、それなりのマーケティング投資が必須となるためです。
嗜好品っぽい商品とは、それを使って、今よりもより良い満足を得られる商品です。

イメージを膨らませるために、具体例を挙げてみましょう。

例えば、「出来立てプリン」の材料キットの販売アイデアを思いついたとしましょう。
焼き立ての温かいプリンは、めちゃくちゃ美味しい!と、売り手であるメーカーは、思い込んでいます。
実際、美味しいかも知れませんが、嗜好品ですから、冷たいプリンの方が美味しいと評価する消費者もいるはずです。

でも、食べた経験のある人は、殆どいないはずだから、提案してみたい。
しかも、競合はゼロ!
絶対に売れるはずだ!!
と、売り手の妄想はふくらみがちです。

しかし、ある商品やサービスが、市場に普及していく法則を研究した「普及学」の原則に則れば、黄色信号を灯す必要があります。

新商品をスピーディーに市場に普及させるには、5つの条件を満たす必要があります。
一つ目は、比較優位性。
二つ目は、単純性。
三つ目が、使用可能性。
四つ目が、可視性
五つ目が、両立性
です。

波及営業では、この5つの条件を意識的に満たすように「商品企画からセールスまでを設計」していきますが、上記の例(出来立てプリンの材料キット)は、この両立性の原則から、外れてしまっているために、普及しにくい特性を抱いてしまっています。
つまり、市場に広く普及させていくためには、認知・啓蒙コストと時間がどうしても必要になるのです。

今から48年前に、世界初のカップヌードルを売り出した日清食品が、カップライスを発売しました。
ヌードルから、ライス。
ありそうな市場です。

しかし、両立性から考えると、ご飯は炊飯器で炊くものです。
お湯で戻す文化もありません。

潜在顧客が、これまでの価値態度(価値があると認知している状態)、経験、欲求と一致している場合には、両立性が保たれ購入してくれる可能性は高まります。
しかし、当時のカップライスは、価値態度、経験、欲求がありません。
カップヌードルは売れている。日本人は、米文化。だからカップライスが売れるだろう!というのは、都合の良い思い込みでしかなかったのです。
この時点で、ロジック的に「売れない」(普及しにくい)ということが分かります。

日清食品は2代目経営者が、創業者である父への反骨精神から、莫大な投下資本で、50年近くの歳月をかけてあの手このてを使って市場浸透に成功させましたが…
普通の中小企業に真似ができるマーケティング展開ではありません。

前回のコラム(第552話 成功する新規事業と、地獄をみる新規事業の根本原因を探る)でも、お伝えした通り、マーケット(将来の顧客になり得る人たち)に寄り添うことが、新規事業、新商品販売では絶対条件となります。

ちなみに、「これは厳しい戦いになるかも…」と思われる新商品であっても、マーケットの視点を加えると、売れる匂いがしてきます。

また冒頭の具体例でイメージしてみましょう。

「熱々の出来立てプリン」は、両立性の観点から言って、価値態度(価値があると認知している状態)、経験、欲求もありません。
食べてみたいかも!という「興味」はあっても、「欲求」まで強い衝動にはかられる人は、極々少数派です(普及学を下敷きにすると全体の2.5%程度)

これでは、購入を期待できるマーケットの分母は、あまりにも少なすぎますし、そもそもリーチすら出来ない可能性が高いです。
つまり売上は限りなくゼロに近い状態に追い詰める可能性が高いことが想定されます。

この状況を打破するには、両立性を加味し、マーケットの分母を増やすことが大事
保守性(価値態度や経験、欲求)と新規性との架け橋をマーケットに提案するのです。

具体的には「熱々のプリンも体験できる」もちろん「冷やして食べても美味しいよ」と、消費者がこれまで経験したことも受け取れるし、新しい価値も経験できる!
ちょっと興味があるから、トライしてみようか…
と、両立性を加味すると、マーケットの裾野が広がっていくのです。

これは机上の空論ではありません。
実際に、藤冨がお手伝いしたプロジェクトでは、実証実験済みのロジックです。

ブルーオーシャン市場だから、競争がなくて儲かる!と単純に考えるのは危険です。
マーケットの心理と普遍の原理原則を吟味せずに、事業を押し進めれば、手痛い出費に悩まされます。

長くなるので、今回は解説しませんが、ネガティブ解消商品であれば、小資本で市場開拓が可能です。
また、今回解説したような「嗜好品っぽい新商品」に分類されるポジティブ拡大商品でも、両立性を加味することができれば、売れる可能性が広がっていきます。

しかし、保守性と新規性の架け橋ができない場合…覚悟なくしての市場参入は控えた方が賢明なのです。

御社は、マーケットの心理と普遍の原理原則を吟味して、新規事業、新商品発売に踏み切っていますか?