「顧客ニーズにマッチした商品を開発しろ!と言われているのですが、どうやったら顧客ニーズにマッチできるのか…雲を掴むような指示を言われているので、学びにきました」
先週の火曜日、日刊工業新聞社が主催している「自社製品が面白いほど売れる〈独壇市場の構築法〉」セミナーを実施した際に、受講者のAさんが言った参加目的。
雲を掴むような指示…と、表現されていたのは、なかなか的を射た表現で、思わず膝を叩いてしまいました。
・確かな存在があるように見えて、近寄ってみると気体のように存在しない顧客ニーズ
・常に形を変え、捉え所がない顧客ニーズ
確かに、「顧客ニーズをつかめ!」という指示は、雲を掴むようなものです。
きっと、上司も具体的なアプローチを知らないから、具体的な指示が出せないのでしょう。
これは、Aさんの会社だけではありません。
意外にも多くの企業では、「顧客ニーズに合致した商品を生み出すプロセス」が個人の力量に委ねられているのです。
これでは、生産性が向上しないは、ある意味アタリマエです。
日本の製造業は、生産現場での労働投入量が減少し、効率的になっているために、サービス業などの他の産業と比較して、世界的にみても、そこそこ高い生産性を確保しています。
しかし、付加価値の高い商品を作りだす… という最も直接的に「生産性の向上」につながる全社的アプローチは、脆弱だと言わざるを得ません。
・粗利益率の高い商品開発
・営業マンの労働投入量が抑制しても、売上が伸び続ける「売れる商品開発」
この必要性が、今こそ求められていることを、先週のセミナーでヒシヒシと感じました。
なので、今日のコラムでは実践的に、どうやったら「雲を掴むような商品開発」から脱却し、「地に足のついた商品開発」の体制が作れるか?
掘り下げて言語化してみたいと思います。
「顧客ニーズ」正確には、顧客の欲求と表現したいのですが、これをうけたまには、顧客が抱える「不」の要素に着眼することが大事です。
なんだ、よくある話か… とページを閉じないでください。
最後まで読むと、机上でのよくある話ではなく、極めて実践的に落とし込まれていますので、最後までお付き合いください。
不の要素とは、消費生活者や企業活動において、満たされていない欲望や願望、期待などをいいます。
具体的には…
・「不満」 :作業が辛い 余計なコストが発生
・「不自由」:時間が拘束される 工具が限定される
・「不便」 :作業工数が多い 手間暇がかかる
・「不足」 :一部の情報が手入力になる
などなど、他にもまだまだたくさんの「不の要素」がありますが…
この「不」を解消することで、買い手の満足度が向上する商品は「営業しやすい商品」になります。
ところが、法人営業の場合は、単に「不の要素」だけに着眼しても、顧客ニーズ(顧客の欲求)には辿りつきません。
受講生のAさんも、これを知らずに、まさに地獄の釜を覗く可能性が高い道を歩もうとしていました。
Aさんは、肉体労働を伴う職場環境で、当社製品を使えば「疲れない」という”とある商材”を製品化しようと企画していました。
コンシューマ向けの商品(BtoC)ではなく、法人向け商品(BtoB)としての販売です。
ただ、上司がなかなかGOサインを出さないとのこと。
どうやって説得したら良いか? と相談してきました。
残念ながら、私も「それは売れないのでは?」と、悶々としました。
理由は簡単です。
パンチ力のある「営業トーク」が、どうやっても思いつかなかったからです。
Aさんは、さらに突っ込んできました。
「疲れない!というエビデンスがあれば、売れるでしょうか?例えば、導入する前と、導入後の乳酸値を計測するとか…」と。
なるほど、確かにエビデンスは必要です。
しかし、エビデンスというのは「欲しい・買いたい!」と情動が高まった後に、要求される要素です。
「それ購入したいけど、本当なの?」という信用を獲得するためのコンテンツなのです。
これは「購買心理プロセス」を整理すると分かります。
欲しい・買いたい → でも、本当に効果あるの? → どうしよう…他に良い商品があるかも
と、購買心理は遷移していきます。
なので、まずは「この疲れない商品」のプレゼンを聞いて、「欲しい!買いたい!」というモチベーションを高めるコンテンツを作り込むことが先決。
つまり、営業トークをクリアにしないと、売れるか売れないかの判断が付かないわけです。
Aさんの企画は、法人向けに「社員やパート・アルバイトが疲れない労働環境」というコンセプトを提案しようとしています。
決済者は、大企業なら総務部長になるでしょうか。中小企業なら役員か社長が出てきて、そのコンセプトの魅力を判断し、購入するか否かの意思決定をするでしょう。
このとき「疲れない労働環境」を会社が提供することによって、会社側がどんなメリットが享受できるのか?
会社がお金を払うのですから、ここを明確にプレゼンする必要があります。
作業環境の改善によって…
・生産量が増加するのか?
・離職率の高い職場では、離職率が改善されるのか?
・働きやすい職場と評価されることで、人材募集に良い影響を与えるのか?
などなど、明確にすることで、法人担当者は食いついてきます。
営業トークの冴えない商品は、売れません。
そんなのは、商品の企画時点…つまり開発する前にわかるはずです。
商品を作る前に、営業トークを作り込む。
このなんてことないプロセスを「商品の企画開発体制」に組み込むだけで、着実に生産性が高まっていきます。
御社は、モノを作ってから営業活動をしていますか?
それとも、営業トークを作り込んでから、モノづくりをスタートしていますか?