「“市場との対話“と”顧客との対話“の相違点がいまいちピンときません。顧客の声も大事なのではないでしょうか?」
とことん本質追求コラムの読者さんから、メールにてご質問を頂きました。
この場を借りて、ご回答させて頂きます。
誤解しないで頂きたいのは、顧客の対話を軽視しているわけではないということです。
しかし、顧客との対話ばかりを重視した活動をすると、視野狭窄に陥ってしまうことも経営陣は強く意識しなくてはなりません。
なぜなら、顧客は我々が提案した商品を受け入れた人だからです。
人は、自分が選択したことは、正しい選択だと思い込みたい生き物です。
従って、顧客との対話は「耳触りの良い感想」が集まりがち。
「耳障りの良い言葉」に浸っていると、いつしか茹でガエルと同じ状態に陥ってしまう確率が増大していきます。
顧客の声も大事ですが、それよりも、商談現場で何が意思決定に影響しているか?を正しく掴むことが大事です。
ドラッカー氏も『ネクスト・ソサエティ』という本で「非顧客こそが重要。来るべき変化を知らせてくれる貴重な情報源である」と言っている通り、顧客以外に主たる自社の課題が眠っているわけです。
これを営業マンから聞き出そうと思っても、キーエンスのような恐ろしいほどのマネジメント体制が築けていない限り、土台無理な話です。
一例をお伝えしましょう。
以前、とある企業の営業会議に参加した際、案件ベースでの進捗報告が行われていました。
DX商材を取り扱うメーカーですが、見込客に提出された提案書と見積書をみて愕然。
「あのー、売る気ありますか?」と思わず、声に出してしまいました。
と言うのも、提案書に、自社の強みや製品の特徴、そして会社自慢の事業案内がつらつらと書かれているだけ。
見積もりに至っては、総額表示のみ。
商品に優れた競争力があるので、この商談は決まるかも知れません。
しかし、競争環境が熾烈な市場ですから、受注確率は 50:50。
恐らく失注しても、営業担当者は誤った報告をするはずです。
「今回は競合のX社に値引き合戦で負けました。失注は当社の価格が高いのが原因です」と。
確かに表面的には、そのように見えるケースもあるでしょう。
しかし、失注した「真の理由」は違います。
営業マンが、価格の伝え方を知らないのです。
いえ、もっと言うと自社商品を魅力的な伝え方をも知らないのです。
どうゆうことか?順を追って説明しましょう。
同社は、本当に優れた「DX商材」を販売しています。
「DX商材」の購入目的は、言わずもがな「生産性の向上」です。
しかし、ここで思考回路が止まってしまうとアウトです。
生産性向上によって、現場がどう変わるのか?
そこまで見込客に明確に伝えないと、購入意欲が湧いてこないのです。
一代で1500億円企業(2015年退任当時の売上)を育て上げたジャパネットたかたの創業者高田明氏も「お客様は機能や使い方ではなく、“その商品を買ったら、自分の生活がどのように豊かになるのか”に興味がある」と語っています。
つまり、提案したい商品の魅力を伝えるのではありません。
我々の商品は、お客様の生活や仕事をこのように変えることができる魅力を持っているのです! と伝えるのです。
価格の伝え方も同じです。
冒頭の企業の会議室では、「DX商材」なのに、総額表示していました。
マンションを営業するときに、5000万円です。
と言うよりも、月々の負担は25万円です。商談で刷り込んでいった方が売れます。
5000万円の購入費は、今の生活からいまいちピンと来ませんが…
月々、18万円と支払うローン費用で伝えた方が、今の家賃と比較できるからです。
人は、イメージできないものに、リスキーな行動は起こしません。
これなら満足できる!と言うイメージができたときに、行動を起こすのです。
「DX商品」も同じです。
月額費用に換算して、費用対効果を、客観視してもらうべきです。
派遣社員が一人いなくなるようなインパクトのある商材なら、リースを活用した場合の月額費用に換算すれば、買わない方がおかしい!という判断になるはず。
ちょっとした一手間です。
商談時に、作業要員の人数、コストを割り出し、本当に一人減るかどうかを見込客と商談の場ですり合わせた上で、導入費用とコスト削減効果の費用対効果の資料を作るなんて、+α 1時間もかかりません。
しかも…です。
ここからが、本題になるのですが、この見込客との商談経験が、すべての資産となり、最終的に「市場との対話」につながっていくのです。
どうゆうことか?
製造業に対しては、費用対効果はこの程度か。
サービス業なら?
小売業は???
と、自社のDX商材が、どの業界にとって、どれだけ貢献できているのか?が見えるかできれば、自ずと「攻めるべき市場層」がわかってきます。
・その業界の構造的な課題
・その業界では、常識となっている不合理
・その業界では、慢性化している悪しき慣行
などが、見えてくると効率的な組織的営業活動が行えるわけです。
顧客と対話をしている会社の会議室を覗くと…
「先週はA社とB社に訪問しました。見積書を提出しました。A社からは高いと言われて、失注しそうな状態。B社は前向きに検討してもらっています」とレポートを読めばわかるようなことを、高い人件費の人が集まって報告会を開いています。
一方、市場と対話をしている会社の会議室を覗くと…
「先週訪問したAに弊社製品を導入すると月間50万円のコストダウンが図れそうだと分かりました。今までの営業してきた業界よりも、突出した生産性向上が図れそうです。A社の属する業界をリストアップして、全員で営業かけて、導入効果の共有をしたいのですが…どうでしょうか」
と、誰がどう見ても、生産性の高そうな営業活動をしようとしています。
会社組織は、所属する人が集まって、一つの成果を出すものです。
役割が重要であり、その役割同士が、有機的に機能することで、成果を出します。
市場との対話で、誰がどのような役割をし、どのように行動していくのか、が見えてきます。
しかし、場当たり的に各人が同じような重複作業をしている限り、組織として有効に機能してくれません。
顧客との対話をする限り、堂々巡りを繰り返してしまいがちになるのです。
御社は、市場と対話を意識した事業活動をしているでしょうか? それとも顧客との対話で堂々巡りしていますか?