「キーエンスの営業体制づくりをパクって営業マンに喝を入れようとした企業がいたのですが…営業マンから総スカンをくらって1ヶ月も持たなかったようです(苦笑)」
コンサルタント仲間のクライアントが残念な取り組みをされて、現在も社内が分裂。
「やらなきゃ良かった(涙)」と嘆いていた…とのことだったので、同じ過ちを犯す社長やマネージャーが後を続かないように、今回の失敗談を深掘りしてみたいと思います。
そもそも、他社の成功ノウハウをパクっても成功しない理由は、「前提」を考慮していないことが全ての元凶となっています。
ノーベル賞経済学賞を受賞した認知心理学者のダニエル・カーネマン氏は、計画が失敗に終わる原因を「計画錯誤」だと指摘しました。
計画錯誤とは、「計画完遂に必要なリソース(前提条件)を過小評価し、計画の実現は私(当社)にもできるはず!と過大評価する傾向」を言います。
言い換えれば、前提条件を踏まえない計画は、失敗に終わるリスクが極めて高い…ということが出来ます。
では、他社の成功ノウハウは、参考にならないのか?
と指摘されそうですが…
決して、そんなことはありません。
表面的な活動だけでなく、その活動の背景や前提条件まで丸ごと構造的に真似れば、結果は出やすくなります。
具体的に深掘りして参りましょう。
藤冨はキーエンスの営業マン達がダントツの成果を上げ続けられる「前提条件」は、5つの要素に分かれていると感じています。
- 採用の段階で「タフな営業活動」に耐えられる資質を持った人材のみを採用している。
- 高額報酬を与えられるビジネス設計が出来ている。
- 上司のコーチングのレベルが異常に高い。
- 情報共有のプラットフォームに多大な投資をしている(はず)
- 経営センスの全社的向上プログラムの徹底化
以上5つの前提条件が、キーエンス の強力な営業活動を支える前提条件です。
1の「採用の段階で「タフな営業活動」に耐えられる資質を持った人材のみを採用している。
は、すでに組織が出来上がった企業が模倣することは困難です。
そもそも、優秀な人材が集まる仕組みを構築するには、企業のブランド力が必須。
この前提条件を考えずに、「タフな営業活動」を既存社員に強いたところで、反発されるのは火を見るより明らかです。
それを回避するには「高額報酬」だけに目が行きがちですが…
その高額報酬も、付け焼き刃では機能しません。
2の 高額報酬を与えられるビジネス設計が出来ている。
文言通り、人事制度としての「報酬」ではなく、高額報酬を与え続けることができる「ビジネス設計」が出来ているのが、キーエンスの最大の強みです。
・粗利益率8割を越す商品群。
・その高収益商品を生み出し続ける「仕組み」
があってこそ、高い報酬制度を組織的に展開できているのは間違いありません。
3の上司のコーチングレベルが異常に高い
このポイントも、生産性の高い営業部隊を維持する上では欠かせない要素です。
専任の営業管理職を置いている中小企業は「稀」です。
多くは管理職自らも個人ノルマを抱えています。
これで、部下の能力向上に注力しろ!というのは無理な話です。
キーエンスは、冒頭の中小企業の社長が真似したい…と言っていた「外出報告書」と「ロープレ」を徹底していて、どの企業がどんなニーズを抱えていて、どのような提案を行うのか? 事前に上司が掌握し、部下の指導育成にあたっています。
1日5〜10件訪問するのが、キーエンス の掟ですから、部下が10人いれば、一日50〜100もの商談ロープレに付き合い、的確な助言をする…。
想像するだけでもめちゃくちゃ大変な日常業務です。
とても兼任で出来る仕事ではありません。
質・量ともに、パワフルなコーチングレベルが上司に要求されています。
4の情報共有のプラットフォームに多大な投資は、藤冨の憶測ですが…
外出報告書や営業報告など分刻みで入力されている「情報システム」への投資は、初期投資だけで数億から数十億。
維持管理費用でも、膨大な投資がされていることが容易に想像できます。
キーエンスでは、営業の生産性を高めるために、商談パターンの共有化のみならず、一人ひとりの活動も可視化されていると言います。
昨日、今週、今月…誰がどの程顧客に出向き、どんな活動をして、どんな成果を上げたのか?まで、明らかになっていて、その数字を見るだけで「サボれない」という空気感を醸し出しているのです。
・サボれない環境。
・どうすれば商談をまとめることが出来るか? を探求するデータベース。
・顧客の課題に、他の営業は何をどう提案したのか?を把握できる共有情報
情報武装が成果につながることを確信している企業は、これが「命綱」と認識しています。
投資を惜しまないはずがありません。
5の経営センスの全社的向上プログラムの徹底化は、2の高額報酬を与えられるビジネス設計と密接にリンクしています。
同社は、「顧客が欲しいというものは作らない」という掟があるそうです。
この解釈を正しく行うことが、商売を継続的に発展させるために”最も大事な視点”だと藤冨は認識しています。
普段、とことん本質追求コラムを読んでいる方なら、腹落ちされていると思いますが、ニーズが顕在しているものは、すでに競合が存在すると言うこと。
機能、性能に差別的優位性がなければ、価格競争になってしまいます。
粗利益率8割を越す営業実績を上げている背景は、高いマーケティングセンス(経営センス)が身に付く行動習慣が、キーエンス の営業活動習慣に組み込まれているからでしょう。
高収益企業を目指し、社員に高い給与を与える体制を整えたければ、「顧客が潜在的に欲しいと思っている商品を提案できる」土壌を組織的に根付かせる必要があります。
どれも、ハードルの高い取り組みばかりです。
また、一つ一つが分離されて機能していくのではなく、有機的に連携して機能しています。
それでも、上述の構造的な要素を抽出し、自社に出来るところをパクっていくことができれば、成果に繋がるでしょう。
つまり、「外出報告書」と「ロープレ」など表面的な仕事を真似ても機能しません。
「営業管理者を専任制にする。そのためにはどうするか?」と考え、実行することで成果につながっていきます。
表面的な活動を真似るのではなく、構造的な要素ごと真似ること。
これが成功の秘訣です。
御社は、他社の成功ノウハウを構造的に模倣していますか?