「ドリルを買う人が欲しいのは「穴」である…。という話ですが、うちの接着技術には、当てはまらないと思うのです」
先日、クローズドのグループコンサルティングで初回講義を受けた参加者から、疑問を投げかけられました。
ドリルを買う人が欲しいのは「穴」である。
これは、「マーケティング発想法」という1968年に出版されたT・レビット博士の著書の冒頭に出ている言葉で、マーケティング の本質を解いていると言われています。
残念ながら、私はそう思っていませんが…。
その理由は、後述するとして、冒頭の社長(参加者)は、いつも遠くから観察していましたが、非常に優れた技術を持っているのに、思うように売れていなかったようで…
知り合って5年。
ようやく藤冨の実戦型プログラムに参加してくれました。
本当によかった!
社長の質問を聞いて、同社の業績が伸びない本質的な理由がわかったからです。
その成長を阻害していた本質的な理由とは…
きっと社長も本コラムを読まれていると思うので、失礼ながらズバリをお伝えします。
ここが転換期。
気づいて欲しいからです。
一言で言うと「自惚れが強すぎている」のです。
ここは、非常に微妙なところなので、文書で伝えきれるか些か不安ですが、大事なことなので試みたいと思います。
なぜ自惚れが強いと成功しないのか?
これには3つの視点から解説することができます。
1つ目は、現実を正しく分析することができないから
ドリルを買う人が欲しいのは「穴」と言う視点は、顧客が求めているのは「その商品を購入して実現したい目的」です。
いわゆる「ベネフィット(便益)」と言われているものを、顧客は購入しているのです。
ただ、お勉強レベルで、この重要な「教え」を捉えてしまうと、顧客視点とズレてしまう可能性があります。
マーケティングの本質を解いたと言われる「ドリルではなく”穴”を求めている」という表現から、いわゆるベネフィットを考察すると…
・電源に縛られることなく、自由に穴をあけたい=充電式ドリル
・夜中でも気兼ねなく穴を開けたい=静音ドリル
・ガラスにも穴を開けたい=ガラス用ドリル
などなど、穴を開けたい…という人が困っていることや充足されていないウォンツに目を向けることになります。
しかし、お客様は、なぜ穴を求めているのか?
藤冨は、ここに追求することがマーケティングの本質だと思っています。
「お客様は穴を求めている…」と現実を捉えてしまうと、どうしても視野狭窄になってしまうからです。
穴を開けて、ボルトを突っ込み、何かを接着させたい。
これを「その商品を購入して実現したい目的」として捉えると、接着剤でも良いかもしれないわけです。
お客様から見れば「あらゆる代替案」が、選択可能。
現実を正しく分析し、どうやったらお客様から選ばれる存在になるのか?
この最初のスタンスが、事業成長を支える基盤となるのです。
優れた技術や製品を作り、少なからずの顧客がそれを支持していると、どうしても「私の技術や製品が優れているから、売れている!」と自惚れてしまいます。
しかし、それはたまたま優秀なお客様が、それに気づいただけ…。
謙虚に現実を捉えることが大事です。
2つ目は、商品企画・開発でピントがズレるから。
上記の通り、顧客から見た現実を正しく捉えていないと、商品企画・開発の段階でズレが起きるのは、あなたも容易にイメージができると思います。
例えば、「監視カメラ」の分野で、新規参入を試みたとしましょう。
すでに、パナソニックなどの大手企業が、市場に参入しているレッドオーシャンの市場です。
そこに、住人の顔を記憶し、それ以外の人の記録を撮る、新しい切り口の新商品を売り出すベンチャーがいたとしましょう。
新築マンションへの営業は、設計士へのリーチが極めて難しいので、営業戦術上は苦戦を強いられます。
パナソニックなどの大手企業なら、ツテを辿ってマンションデベロッパーの設計士にリーチができても、人脈のないベンチャーは、手がかりさえ掴むのが難しいからです。
既存のマンションも、住人の過半数の賛成がないと、導入不可。組合への営業でも苦戦するのが想像できます。
なら、個人宅だ!
と個人宅に絞って、商品企画・開発を成功させ、ホームページやカタログをつくり、膨大な広告費をGoogleに払ってアクセスを集めてみると…
全く無反応。
なぜ、個人宅にはニーズがなかったのか?
ここが「顧客視点」「買い手視点」のキモになるのです。
・防犯カメラは、なんのためにあるのか?
・防犯カメラは、どんなベネフィットを顧客に提供できるのか?
この質問で、「売り手の視点」と「買い手の視点」のズレが明らかになるはずです。
3つ目は、自惚れセールスは通用しない時代
商品企画・開発のズレをセールスで補うことは、情報化社会が浸透する前なら可能でした。
セールスマンのテクニックの中には、「帰らない」という力技が推奨されていた時代があったくらい、商品そのものを売る技術ではなく、心理的な圧迫感でセールスを成功させるノウハウが流布していたほど。
しかし、高度情報化社会は、営業マンの自惚れも通用しにくい時代が、今後ますます強くなっていくのは間違いありません。
経営陣も「商品が売れないのは、営業マンが悪いからだ」という、時代錯誤な認識を頭脳から削除する必要があります。
現代の「買い手」は、ヘタをすると「売り手」よりも情報を持っています。
「穴を開けるより、こっちの強力両面テープの方が良いよ。現状復帰ができるし!」と、目的から逆算した様々な代替案が、ちょこっとYouTube等で検索すると、大量に出てくる時代です。
豪腕な営業力で知られる7000億円企業の「光通信」も、今の時代では「テレマ」や「飛び込み営業」をほとんどしてないと先日幹部から聞きました。
前近代的な営業手法が成りなっていた時代は、消費者が「情報弱者」だった時代です。
「情報の強者」が増えてきた時代は、「営業マンによる売るテクニック」は通用しにくくなっている…。この現実にしかと向き合うことが「事業成長」の前提となるのです。
御社は、真の顧客視点を脊髄まで浸透させていますか?
追伸
・10月28日に日刊工業新聞社で【プレゼン・セミナー】を開催します。
営業マン向けですが、経営者や企画担当者も、顧客視点から技術・商品、サービスの魅力を語るためのテクニックが学べますので、ぜひ参加してみてく ださい。限定12名です。
https://corp.nikkan.co.jp/seminars/view/5043