とことん「本質追求」コラム第499話 絶体絶命!それでも窮鼠猫を嚙む戦略

 

「4月時点の売上で業績を回復させないと資金繰りが厳しくなります…。手伝って頂けないでしょうか?」

 

先日、スポットコンサルティングで伺った相談。

伺うと事業買収した企業の財務内容と事業内容が想像以上に悪く、本体の経営にまで悪影響を及ぼす可能性があるとのこと。

早急に買収した事業の立て直しをしたいので、波及営業を取り入れてV字回復を狙いたい!と言う内容でしたが、詳しく伺うと極めて厳しい状態に立たされていることがわかりました。

 

と言うのも、その業界のトップシェアの会社は何と、市場シェア95%を占めているとの状況。

その話を伺った瞬間から「このお話はお断り案件だな…」と感じました。

 

競争戦略をかじっておられる方なら、ご存知の通り、市場シェア73.9%以上を占める首位企業がいる「寡占市場」において、同じ市場で戦う限りほぼ勝ち目はありません。

 

しかも、その市場にはプレイヤーが5社。

残り5%を4社で割ったら、単純平均すると1.25%のシェアしか取れていない計算になるわけです。

さらに、競争優位性を発揮する「差別化」が非常に打ち出しにくい。

 

例えば、ビール業界も典型的な寡占市場ですが、嗜好性が強い商品であること。スイッチング・リスクが少ないことで、新規参入者でも一定の売上を確保できます。

クラフトビールが伸びているのを見るとわかると思います。

 

しかし、例えば「運転免許の教習所」のような市場では、嗜好性がないこと、さらにスイッチングリスクが高い状態ですから、消費者は保守的になります。

そもそも顧客は、免許さえ取れれば良く、求めているのは「取得までの期間」が主となる顧客メリットです。

あとは、通う際の利便性や予約の取りやすさ、営業時間などが「購買の選択基準」となりますが…

 

チャレンジャー企業がいくら新機軸を打ち出しても、「首位企業」が真似れば、すぐに差別的優位性が失われてしまいます。 

 

このように、「運転免許の教習所」のような嗜好性が低く、スイッチングしにくい業界は、地道な努力を重ねて、圧倒的優位者になった首位企業の牙城は、ほぼ崩れないと考えて間違いないのです。

 

従って、藤冨としても考える余地もありません。

よほどの覚悟と勇気を持たない限り…「撤退」こそ、正しい選択です。

 

もう記憶が朧気(おぼろげ)ですが、6〜7年前に「営業を設計する技術」を読んだ読者さんから、スポットコンサルティングで同じような相談を受けたことがあります。

 

しかし、市場シェアが8割を超える市場で10年以上も戦い、一度も黒字化したことがない…とのこと。

電話相談を開始して、3分後に藤冨は一定の判断を下しました。

 

「勇気ある撤退」しか道はないかもです、と。

 

「高いコンサルティング料金を払っているのに、答えは”撤退”ですか?」と興奮されてきたので、藤冨は諭すように言いました。

 

 

「撤退の意思決定を迅速に行えば、収益事業の利益を蝕まなくて済みます。価値ある判断だと認識できるはずです」と。

 

しかしです。

 

あり得ない作戦に出れば、シェア逆転は当面不可能であったにせよ、収益化事業にすることは可能であることを伝えました。

 

すると、その社長は落ち着きを取り戻し、素直に耳を傾けてくれるようになったのです。

 

「絶対に成功する作戦」と言うのは、この世には存在しません。

しかし、「絶対に失敗する作戦」は、この世に存在するのです。

 

普通、成功する経営者は、決して負け戦はやりません。

しかし、負けても、尚やらなければならない理由があるのであれば、話は別です。

 

 

私が敬愛する西郷隆盛氏も、負け戦と分かっていながらも「西南戦争」への突入を英断しました。

 

様々な書籍から寄せ集めた想像なので、事実か否かは分かりませんが、負け戦と分かっていながら、なぜ西郷氏は西南戦争突入を覚悟したのか。

 

これは、西郷氏の平和主義と、新明治政府の自己保身、略奪的思想に対して反発から始まっていると私は感じています。

 

明治新政府樹立後、新政府は朝鮮に対して武力行使を前提とした開国を求める議論をしていました。

その中で一人、異論を訴えたのが、西郷どんです。

西郷どんは「私が一人丸腰で朝鮮に渡り、交渉を試みる」と新明治政府に訴え…「もし私が殺されたら、それ理由に武力行使の大義がたつ」と。

あくまでも最初は平和的交渉にこだわりました。

しかし、新政府は西郷案を却下。

反発した西郷どんは、新政府に関わることをやめ、鹿児島に帰ってしました。

 

問題になったのは、西郷氏の人望に敬意を抱いていた600名もの政府首脳・軍人・官僚が後を追い、辞職したことです。

 

この影響力に新政府は強い警戒心を抱きました。

西南戦争への突入の原点は、ここにある…と藤冨は感じています。

 

負け戦であっても、ついてくる仲間の思い武士道精神を守りぬくことが自らの宿命であると判断しただろうからです。

 

話が横に逸れてしまいましたが、事業においても「宿命」だと感じた仕事を推し進めるために「負け戦」覚悟で戦わざるを得ない人だっているわけです。

 

 

そこに「義」を感じることが出来れば、藤冨はお手伝いをします。

 

冒頭のご相談者に、1時間30分程度のヒアリングを経て、藤冨はあるアイディアを授けました。

 

・シェア95%の企業が手をつけていないこと

・消費者に、そのサービスを提示したら、喉から手が出るほど欲しくなること

・そのサービスの認知度を高めるため資金、人手が十分にあること

 

この3つの条件が揃ったアイディアです。

藤冨の助言は、そこで小休止。

 

12月はすでに予定がパンパンになっていることもありますが、それよりも同社の社長に「勇」があるか見たいからです。

 

人間としての正しい道、正義を指す「義」があっても、それを実現するための精神的、肉体的な強さの裏付けを持った「勇」がなければ、事は実現できないからです。

 

3つの条件が揃ったアイディアに全ての経営資源を集中させれば、極めて高い確率で「お金を得ながら、顧客リストの獲得」ができるはずです。

短期決戦であるために、徹底した集中が必要。

 

そこに「勇」を振り絞れるか。

全ての経営資源を恐れずに突っ込めるか。

絶体絶命のピンチを乗り切るには、「義」と「勇」が必要不可欠なのです。

 

御社は、絶体絶命のピンチを乗り切った経験はありますか?

その時「義」と「勇」があってこそ、今があると思いませんか?