「藤冨さん、ファウンダーって映画見ました? マクドナルド兄弟から経営権を奪い取ったレイクロック(実質の創業者)のドキュメンタリー映画です」
先日、旧知の経営者がビデオでファウンダーをご覧になったらしく、ランチ時の雑談で盛り上がりました。
日本マクドナルドの故、藤田 田社長(ふじた でん)の書籍もほぼ全て読みましたし、レイクロックの自叙伝「成功はゴミ箱の中に」も読んだくらい藤冨はマクドナルドには入れ込んだ事あります。
20代後半の時、たまたま手にとった藤田田社長の本がとても面白く、全ての書籍を取り寄せしようと本屋に頼むと全て「絶版」。
どうしても諦めきれずにマクドナルドの本社に、定価の30%増しで買うから、全書籍を譲ってもらえないでしょうか?と手紙を書くと、同社から「本当に読みたいのか? どうして読みたいのか?」と書かれていたので、すでに読んだ書籍の感想を書き、送ったところ…
全ての本が送られてきたのです。
しかし、段ボールの中を隅々探しても「請求書」が見当たりません。
入れ忘れたのかな? と思い、お願いした時の条件のまま定価の30%増の金額を現金書留で送ったところ…。
数日後、自宅に現金書留が届き「このお金はお返しします。あなたに読んでほしいから、書籍はプレゼントします」と書き添えられていて、さらに500円のクーポン券まで同梱されていたのです。
もう言葉にならないくらい感動しました。
そこから、大のマクドナルドファンになり、たくさんの人にこの話を宣伝(笑)してきました。
絶版になった本は2度と刷ることはないので、大変貴重なものです。
今でも大事に書棚にありますが、それ以降、マクドナルドにはポジティブな印象を持っていて、お店で食べるだけでなく、書籍や映画などは好んで触れてきました。
ただ、マクドナルド兄弟からレイクロックが強引に経営権を奪い取り、追い出してしまう精神性については異常性を感じましたし、好き嫌いで判断したら「嫌い」な人種です。
それでも、レイクロックが強引に経営権を創始者のマクドナルド兄弟から奪わなかったら…
現在世界118カ国において、31,000以上の店舗も、広がらなかったのも事実です。
マクドナルド兄弟は、自分たちで考えたビジネスモデルとハンバーガーの品質にこだわり、目の前のお客さんを笑顔にするために事業を営んでいました。
しかし、レイクロックは利益と名誉にこだわり、ハンバーガーを通じて、ビジネスそのものを最大化するために事業を営んできたのです。
歴史に「もしも」はありませんが、マクドナルド兄妹がレイクロックに経営権を奪われていなかったら、これだけの店舗展開はなしえなかったでしょう。
しかし、今のマクドナルドよりも、もっと美味しく品質の高いハンバーガーが食べられたかも知れません。
マクドナルド兄弟は、道端や公園のベンチで、安くて美味しいハンバーガーを食べられるよう「仕組」を考え出しました。
素早く提供し、食事時間をセーブできるよう利便性も高めました。
目の前のお客様のために、安くて美味しいハンバーガーと食事時間のセーブを提供していたのです。
しかし、その「仕組」を見たレイクロックは、ハンバーガーではなく「考え抜かれたオペレーションそのもの」に興味を抱いたのです。
そして、その「仕組み」をフランチャイズビジネスとして販売することに着眼したからこそ、世界NO.1のチェーン店を作り上げることができたのです。
マクドナルド兄弟は、自らの顧客は「ハンバーガーを食べる人々」と定義していたのに対し、レイクロックは、自らの顧客は、「ハンバーガー事業を営む人々」として定義していたと捉えることができます。
そして、マクドナルド兄弟が、顧客に与える効用は「タイムセーブができて、リーズナブルで美味しい食事」に対し、レイクロックは「儲かるビジネス」を提供していたことになります。
儲かるビジネスを購入した人々(法人)は、儲けるために「店舗」をたくさん出店します。
美味しいハンバーガーをたくさん売って、溜まった利益で出店しているのとでは、出店速度が違います。
誰のための何のための事業か?
”今”という視点だけでなく、”未来”という視点を持つと、まったく異なる景色が見えてきます。
大好きだったマクドナルドも40代くらいからでしょうか、
気がつくと健康意識が強くなってからは、めっきり食べたくなくなっていました。
この10年間全く口にしていなかったほどです。
ところが、先日11歳の息子が「マックが食べたい!」というので、まぁたまには良いか…とマックの店頭に着くと長蛇の列ができていました。
何かのお祭り?と思うほどです。
数十分おとなしく列に並び店内へ。メニューボードで一番目立っているサムライマックをオーダーし、食してみると…びっくりするくらい味がレベルアップしていました。
街中にある1000円以上する本格バーガーは、時々食べていますが、同等とまでいかないまでも、かなりの満足度。
息子も味をしめたのか…
その2週間後にドライブをしながらレストランを探していたら、息子の目にマックの看板が飛び込んできました。
中毒になったのか? すぐさま「またマックにしよう!」というので、「さすがにこの間食べたばかりだしなー」と思いつつも、仕方なく店内に入ると…。
12時を回ったあたりから、ドライブスルーとパーキングエリアに入る車の列が国道まで溢れかえり、店内のレジ前にも、行列。
頻繁に出入りする「Uber」や「menu」「自店の配達員」も四方八方から集まり、店内外に人が溢れかえっていたのです。
世界中の人たちから支持されるマック。
結果的に「世界中の人々に早くて、安くて美味しい手軽な食事を提供することができている現実」をみると、レイクロックは、今の世界観が見通せていたのではないか…
と感じてきました。
映画では、レイクロックが自己の利益を最大化する悪者のように仕立て上げられていますが、「誰のための、何のための商売か?」の定義が違っていたために、マクドナルド兄弟と決裂したのではないでしょうか。
表面だけみるとひどい人間ですし、盗人猛々しい行為は、非難されて当然です。
しかし、ビジネスの観点からみると「未来の顧客を創造すること」が、本質的な事業の目的と定義するのであれば、レイクロックのビジネス展開の方針は、正しかったと判断できます。
あなたは、今の顧客をみて商売していますか? それとも未来の顧客を見て商売をしていますか?