「リストラ対象だった●●さんが、いきなり頭角を現し始めたんです…」
とあるクライアント企業の常務さんが各営業マンの成績表を差し出しながら、意外な表情で話し始めました。
私自身も知っている子で「彼女は大変だろうな…」と感じていたので、正直いって驚き。
口数が少なく、質問をしても的を得た返事が返ってこない。
そもそも会話のキャッチボールもできない子で、上長からの話しは聞くものの、真剣になればなるほど目つきが鋭くなる。
これでは、商談の場でも同じような表情になり、おそらく売れないだろう…と思っていたのです。
ところが、意外や意外。
5人いる新人の中で、一番成績が良いのです。
よくよく観察していると、寡黙ではあるものの「機転の効く気遣い」「上長への礼儀作法」「相手に対する感謝の気持ち」など、営業の基本が誰よりも長けていました。
しかも「この商品を通じて、お客様にこうなってもらいたい…」という理想像を誰よりも鮮明に抱いているので、その使命感が客前にいくとにじみ出てくるのでしょう。
とても興味深かったので、常務にお願いをして来年早々にでも現場を観察させてもらう機会を作ってもらいました。私はその時、ある観察視点をもって彼女の一挙一動を凝視していこうと思っています。
その観察視点とは「どのようなボールを投げているか…」というもの。
営業というのは、売り込む作業と勘違いしている方も多いのですが、現実は異なります。
売れる営業マンは、商品の性質や客層によってもことなりますが、基本は「相手の先入観を崩し、自分の描いた認識をお客さんにもイメージしてもらう作業」を行なっているです。
お客さんが「この商品って、こうゆうものだよね…」という先入観を、時に増幅させたり、時にひっくり返したりしながら「この商品は、このようにお客さんに役立つんです」とお客さんの想像を上回るボールを投げることで、お客さんは「それが欲しかったのです」と認識します。
売れない営業マンは、商談中に否定的な言葉がお客さんの口から出ると、その場で心が折れてしまいます。
しかし、売れる営業マンは「あっ、誤解しているな…。ちゃんと理解してもらわないと…」と新たなボールを投げようと頭を切り替えます。
出会った瞬間に「欲しかったんです」というお客さんは1割程度しかいません。
残りの9割は「気づき」を与えて、購買意欲を喚起させないとなりません。
1本の商談が受注できるか否か…全ては、キチンと認識を正さねば…ちゃんと誤解を解こう…と新たな気づきが浮かぶようなボールを投げられるか否かにかかっているのです。
この「商談成立の瞬間」から逆算して考えると、誤解を解きたい…という思いがあるか否かに、売れる営業マンと売れない営業マンの境目があることに気づかされます。
大好きな恋人や大切な家族から誤解をされていたら、「真実」を訴えて納得してもらうために、一生懸命「説得」するはずです。
でも、別に好きでも嫌いでもない人から誤解をされていても、面倒臭って説明なんてしません。
営業マンのベースには、「このお客さんと付き合いたい」「このお客さんにこうなってもらいたい…という思いや使命感が欠かせないのです。
どんなにやる気があって饒舌でも、営業で成果を出し続ける人材かどうかは分かりません。
しかし、使命感のない営業マンが、自社にとっての優良顧客を獲得し、長いレースで成果を出し続ける「真のトップセールスマン」になることはないでしょう。
自社にとっての営業マンの適正は「使命感」の有無がカギを握っているのです。
自社の営業マンにどう「使命感」を醸成させるか…
「使命感」を抱かない社員は、どう対処していくのか…
ビジョナリーカンパニー2(ジム・コリンズ著)でも「適切な人をバスに乗せる。不適切な人はバスから降りてもらう」が伸び続ける会社の共通条件と主張していました。
適切な人…。
それは自社が提供する価値観に誇りをもち、顧客の理想の姿を実現させるために使命感を持てるか否か…。
これがカギを握っているのではないでしょうか。