とことん「本質追求」コラム第79話 儲かっていれば、戦略は不要か?

「今のところ順調に業績を伸ばせているから、敢えて戦略なんて必要ないですよね?」

先日、2時間の地方セミナーを終了し、名刺交換にこられた経営者から投げかけられた質問です。

事業というのは、時として時流にのっかり想像を超えた成長をみせることがあります。 
何をやっても上手く事が運び、わざわざ難しく考える必要もない…そんな気分にさせられる事もあるでしょう。

 

しかし、私は断言します。 
戦略は絶対に必要です。

 

そもそも戦略というのは、自社が収めるべく市場を見定め、どう攻略していくか…という謀(はかりごと)です。

日本を代表する漢文学者である白川静氏の著書「字統」をひも解いても戦略の「略」は「土地の状態を調査し、自らの境界を定める」という意味を持っていると記されています。

自社が攻略すべき市場の性質を明らかにして、「なぜその市場を狙うのか?」 
「その市場では、競争優位性を発揮できるのか?」 
「その市場にいる顧客に何をもって貢献するの?」 
「その市場は、攻略するために必要な資源、能力は十分か?」 
「具体的に、どう攻略すべきか?」 
などなど、調査や思考・探求を通じて明確化し、自らのポジション(境界)を確立していくことが、戦略の役割となります。

これを言い換えると、計画がすべての出発点にあるということです。

ご質問頂いた経営者とは、別の経営者からも、こんな質問を頂きました。

「当社はシステムの受託開発をしていますが…ここ近年苦しくって…」というものです。

受託開発とは、分かりやすく言うと下請けです。

ノウハウを得る為に意図的に受託をするぶんには構いませんが、ずっと下請け体質のまま経営が続くほど、今の世の中は甘くはありません。

とくにIT企業は、低賃金のインドや東南アジアなどのエンジニアにどんどん市場を食われています。

納品物が「データ」であるため、電子メールなどを通じて瞬時に納品も可能です。 
プログラミングは世界共通用語であるため、母国語が何であろうか構いません。

もう高い賃金を払ってまで国内で生産する必要は、どこにもないです。

これでは、よほどの優れたノウハウでもない限り、生きる場所がなくなります。

同調するようにそのようなお話をしていると、受託開発企業の社長は静かにうなずいていました。

とても紳士的な社長でしたので、何とか力になりたい…と、少し突っ込んでお話を伺うと、元々は会計システムに強かったとの事。 
そこで、以前から「あったらいいな!」というシステムのアイディアを差し上げ、絶対にプロダクトアウトを仕掛けてください。と強くお伝えしました。

下請けをしている限り、どのような活動が売上という企業にとっての生命線につながっているのか、何時からしか分からなくなります。

これは”たまたま上手くいっている事業”にも同じことが言えます。

計画を企てて、実行していれば、成功も失敗も「生産活動の経験値」として蓄積されていきます。

しかし、計画なくして、正しい評価はできっこありません。 
だからいつまで経っても「生産活動の経験値」が蓄積できないのです。

経験値ができなければ、言語化ができないため社員教育さえもままなりません。 
これでは、ちょっとの不測の事象が起きただけで、経営が傾いてしまいます。

モノ作りから販売活動まで、一気通貫の「売れるノウハウ」を蓄積するためには、計画と実行を通じた反省が必要です。

何がうまく行ったのか? 
なぜ、うまく行かなかったのか? 
その事実掌握と次なる仮説が、経営を持続的に成長させる原点となるのです。

だからこそ、他人任せの経営や時流任せの経営…つまり計画なき経営を改め、明確な戦略をもって持続的に成長する「絵」を描く必要があります。

戦略とは、自らのポジションを確立すること。

市場が混沌とした時代だからこそ、明確に方針を打ち出した企業が勝っているのでしょう。