先日、とある企業のプロジェクト会議で「フリー戦略」を採用すべきです…という声が上がりました。
「フリー戦略」はご存知の通り、最初はただ配りするというもの。
最も有名な例で行くと、安全カミソリをタダで配って、その利便性を体感してもらった所で「替刃」を有料で販売していくと言うもの。
プロジェクト上で揉んでいる商品も確かに、その概念は採用できるし、計算上、上手く行けばそちらの方が儲かるという試算も出ています。
しかし、社長は納得していません。
販売が苦戦しているなか、後ろ向きな姿勢から創案された企画だからです。
「そんな戦略は最後の最後だ」と、跳ね返しています。
それでも担当者は、現場の状況から判断して、たびたびプロジェクト会議で「フリー戦略」の必要性を訴え続けています。
確かにその担当者の方の考えも、一理あるのですが……私も、どうも腑に落ちません。
と言うのも、テスト的に集計している「替刃」の収入が「平均値」で語られているのです。(実際はカミソリではありませんが、分かりやすく”例”として取り上げています)
これは私の予想でも何でもなく、現実的に大量配布を実行してもテストデータと同じ平均値のまま売上がたつわけがないのです。
例えば、テストの結果1本当たり年間52個売れているから、10万本配れば520万個売れる! という皮算用をしているのですが……
どうでしょうか?
データ分析を元に経営判断をしたことがある経験者なら、スグに違和感を覚える皮算用です。
なぜなら「平均値」というものは、実在しないのですから。
ぐるなびの平均予算を見て「ふーん、これくらいか…」と思って食べに行っても、私の経験上、一度も「平均予算」で収まった事はありません。
しかし、「食べログ」の平均利用額は、実際のお会計とそれ程ズレません。
何が違うのか… それは、ぐるなびが素直に「平均値」を出しているのに対して、食べログは「中央値」を出しているのからです。
例えば…
二千円の人= 5人
三千円の人=10人
四千円の人=20人
五千円の人=50人
六千円の人=15人 …
と言った集計結果が出た時、「中央値」では5千円と判断します。
仮にこれが平均値だと、
二千円の人= 5人= 10,000円
三千円の人=10人= 30,000円
四千円の人=20人= 80,000円
五千円の人=50人=250,000円
六千円の人=15人= 90,000円
<合計> 460,000円÷100人=4,600円
平均4千600円 と判断されます。
これが、客層が二極化して、低価格の客層が増えたらデータはどうなるか?
二千円の人=30人= 60,000円
三千円の人=10人= 30,000円
四千円の人= 5人= 20,000円
五千円の人=50人=250,000円
六千円の人= 5人= 30,000円
<合計> 390,000円÷100人=3,900円
平均3千900円 となります。
このようなデータが上がってきたときに、多くの経営者はこんな状況判断ミスを起こします。
客単価が4600円から3900 円になったと…。
これでは、正しい経営判断は出来ません。
現実は、2000円の客層が増え、5000円の客層は横ばい、6000円の客層は低下傾向にあるのです。
早急に高価格帯の客層を取り戻さないと、5000円の優良顧客からも支持されなくなりえ、どんどん客単価の低い層にになってし まう恐れがある… こういった仮説がデータから読み取れます。
すると現場への的確な質問が投げ掛けられて、適切な対策が打てるのです。
このように「平均値」で経営判断をすると、とんでもない事が起こります。
カミソリの例に戻しましょう。
現行テストでは、ヒゲの濃い男性を無意識にテスト対象にしていているため、1本当たり年間52回「刃」を替えているかも知れません。
しかし、大量に普及させた際、女性が顔を剃るために使ったり、男性でもヒゲの薄い人が使ったりもします。
すると、そんなに刃が摩耗しないから、年間12回程度しか「刃」を替えない可能性があります。
こういった「事実」を掌握することなく、重要な意思決定が出来るハズがありません。
しかも、想定すらしていないのは、論外です。
事業計画や戦略を立てる際、多くは既存売上、販売個数、客数などの参考データを用いて予算を作り上げていきます。
新規事業でも他社の実績や類似商品の販売データを参考に試算します。 が、もしその参考データに「平均」を使っていたら…大変危険な判断ミスを犯してしまうのです。
データを読み込む際は、データの元になっている「属性」を見透かして、人の行動レベルまで落として現状把握することが大切です。
すると、自然と市場の欲求と噛み合った経営判断が出来るようになります。
ちなみに、分析結果から事業計画策定を企てるには「最頻値」や「中央値」を使うことが原則です。
と言うのも、中央値や最頻値を見ると、リアルな現実を映し出す背景が透けて見えてくるためです。
事業計画が「絵に書いた餅」にならないよう、しっかりと数字の裏付けをとって、リアルな現実を織り込んでいってください。