とことん「本質追求」コラム第33話 思い通りに行かない新規事業の立て直し方

莫大な投資を行った新商品や新規事業が、思い通りに立ち上がらない。

「撤退」が出来れば傷口を広げるリスクも防げるけど、そう簡単にはあとに引けないケースも多々あります。 

前回のコラムで取り上げた金物屋さんから「キッチン用品専門店(A店)」に業態転換したお店は、まさにその代表例でした。 

新規事業が成功しないケースは、3C分析を行うと、すぐに浮き彫りになります。 

3Cとは「顧客(カスタマー)」「競合(コンペティター)」「自社(カンパニー)」の事で、この三方向から客観的に分析すると、いずれかの視点がポカンと抜け落ちていたりします。 

・その商品は、顧客の何の欲求を満たすのか? 
・それは競合他社よりも、魅力的に満たすことが出来るのか? 
・その市場での自社の優位性は持続的に発揮できるのか・・・。

いずれもバランスよく思考していくことが大切ですが、その中でも最も深く突っ込まなくてはならないのが、「顧客の何を満たすのか?」という視点です。 

A店の業態開発は、競合対策だけに目がいってしまい「顧客」の視点が、希薄化していました。

従って、リカバリーの最重要視点は「顧客」を正確に把握するところからスタートしなくてはなりません。 

と、ここまで書くと「市場調査は大事ですものね・・・」
と言われる方が大半です。 

しかし、市場調査で得られる「答え」を、事業戦略に組み込んで、成功する例を私はほとんど見た事がありません。

顧客は、自分でお金を払う瞬間だけ「真剣」に考えます。

アンケートなどから得られる”当たり障りのない会話”なんて、単なる「つぶやき」です。
決して、現実を写すものではありません。 

では、どうやって「顧客の現実」を把握するのか? 
さきほど、A店の事例をもとアプローチしてみましょう。 

シャッター通りと化した商店街で金物屋さんから「キッチン用品専門店」に業態転換したんです・・・
と最初に話を伺ったとき、様々な疑問が私のアタマに駆け巡りました。

●地域の高齢者が進んでいると聞いたが、高齢者は「調理器具」に保守的ではないのか? 

●品揃えで勝負しているが、イオンなどの大手資本と商品レベルで戦えているのか?

●メインターゲットと思われる中高年層は、どんな生活をしているのか?

●食卓に対する価値観、料理に対する価値観とそれに影響を与えているものは何なのか?

●本来は、人的サービスで競争を仕掛ける方が強みを発揮できると思うが・・・現実は?

などなど、事業を成功させる前提として必要な「問」が浮かんできました。 

着物クリーニング看板その時、3ヶ月前ほど、着物屋さんの店頭で告知されていた「きものクリーニング」の事を思い出しました。 

「きものクリーニング20%オフ!」というキャンペーン告知です。

着物の市場は、17年前から1/4まで市場が縮小しています。 こうなると、競合他社との顧客争奪戦に展開せざるを得ません。

その熾烈な競争の中で、どうやって見込み客を獲得していくのか・・・ と悶々と考えたときに、目が止まり「iPhone」に収めていた「店頭販促」です。

「そうか!きものクリーニングの顧客層は、着物の保有者で、さらに着物を着続けようとしている人達だ。

まさに新規購入者が期待できる見込層だな・・・」と。 

アタリマエの事ですが、こうしたアタリマエのちゃんと事業戦略に組み込んでいる企業は成功しています。 

キッチン用品専門店のA店も、当然ながら見込客発掘には知恵を絞っていました。

料理好きの人を集める講座を開き、リスト化を図ろうとはしていたのです。
しかし、この作戦はあまり芳しい効果を上げていなかったようです。 

であれば、また新たに見込客の発掘の知恵を絞らなくてはなりません。
今は、年末。
シーズンがシーズンだけに「キッチン清掃」「包丁磨き」「なべ磨き」などの需要は見込めます。

このキッチン用品のケアサービス事業は、元手なしで今すぐにでも参入できます。 
決して、ここで収益を上げていく事を目的としているわけではありません。
あくまでも、キッチン用品に対して関心の強い「見込客」を発掘するために行うのです。 

ケアサービスを行えば、その顧客が使っているキッチン用品や趣向まで把握できます。 
まさに「台所事情」を掌握することができるわけです。 

この作戦を実行すれば、事業成長の2つの可能性を手に入れることが出来ます。
一つは、「家事支援」という、数少ない成長分野にテスト参入できること。

二つ目は、キャッシュを稼ぎつつ、本質的なニーズを掌握できるチャンスを握れるということ。

まさに一石二鳥のアプローチです。

日経MJの調べでは「家事支援」の成長率が群を抜いており、2位の保育サービスの20%弱の3倍近くにあたる59.4%もの増加率が予想されています。 

成長著しい分野に参入しながら、既存市場のテコ入れ策を掌握する。

どんな窮地に追い込まれても、諦めなければ「失敗」ではありません。

成功に食らいついていけば、必ず活路は見いだせるものです。 

その活路を・・・3C分析を使って、ぜひ客観的に見つめ直してみてください。