とことん「本質追求」コラム第32話 絞った市場に顧客はいるのか?

町の中心街から全長2kmは続く、全国でも稀にみる巨大な商店街。

雨がしのげるアーケードも全ての商店街に設置されており、地元商工会の力強さを感じる町並み。

しかし肝心のお店は、3割程度はシャッターがしまったまま。

郊外型のディスカウントストアーや大型ショッピングセンターが出来る前は、大変賑わっていたそうな・・・

これは、全国でもアタリマエのように見られる商店街共通の現状です。

 

そこに、ある一店の調理器具雑貨店を営む地元の名士が、厳しい現状に果敢に立ち向かっていました。

先日、上越新幹線の新潟駅から40分ほど北上した町の商工会議所で講演をしてきました。

その帰り際、主催者の経営指導員Aさんに「ちょっと見て欲しいんです」と言われて連れてこられたお店です。

 

「以前はよく商工会議所のセミナーにご参加頂いていたのですが、最近めっきりお越しにならないんです。なんでもコンサルタントの先生が経営を見ている”らしい”のですが・・・ちょっと心配なんです」

と説明を聞きながら入店すると・・・Aさんの懸念通り、お店からはまったく活気を感じることは出来ません。

だだっ広い店内に、こだわりの調理器具が洗練されたディスプレイで飾られている店内。

一つ一つの調理器具などのキッチン用品は、どれも”こだわり”の一品だそうですが・・・

正直言って、何にこだわっているのかパッと見はわかりませんでした。

商品ひとつひとつを見ても、それが伝わってこない。

店内を一通り見渡すると、表面的な課題は、たくさん見えてきたのですが・・・何かまだ解せません。

 

もっと本質的な所に「課題」が潜んでいそうな気がしてならなかったのです。

 

そこで、Aさんに 「このお店は料理好きの人のために”こだわったキッチン用品”を品揃えしていますが、これって近くのイオンとか、ショッピングセンターの品揃えと明確な差別化がされているのですか?」

と聞いてみると・・・

「えぇ、こだわりの品揃えだとは思います。それにそれが伝わるように”料理のイベント”なんかもやっているんですけど・・・」

と、少し歯切れの悪い返答が返ってきたので、そもそも論で聞いてみました。

 

「私は地方のマーケットには詳しくないのですが、調理器具にこだわって、ハイカラな料理を作る文化って、あるんですかね?」

と聞くと ハッとされた顔をして、

「元々は金物屋さんだったのですが、郊外型の大型ショッピングセンターに対抗するために、キッチン用品に絞った品揃えをしたのですが・・・」

 

Aさんも「本当に顧客はいるのか?」という疑問がアタマを覆い尽くしてきたようです。

都心ならまだしも、私にも地方都市(10万人弱)は、現場に入らないと答えは見えてきません。

 

しかし、ここで明らかになったのは、戦略策定まえの情報精査に漏れがある可能性が高いという事。

 

よくよくあるミスですが「顧客」という視点をすっ飛ばしていたのでしょう。

 

まさか・・・と思うかも知れませんが、本当によくある話しです。

 

これは、当事者では中々気が付きにくいテーマなので、やっかいなのですが、「顧客を見失う」ケースは決して珍しくありません。

 

昔は活気に満ちた商店街にお店を構えていれば、あまり知恵を絞らなくてもお客様が来てくださった。

 

しかし、郊外に巨大なショッピングセンターが出来た瞬間、顧客は商店街に近寄らなくなってしまった。。。

 

すると、どうしても「競合に勝とう!」「差別化しよう!」という意識ばかりが全面に出てしまい、肝心の顧客目線で、事業を俯瞰(ふかん)できなくなってしまうのです。

 

確実に抑えて置かない視点が、すっぽり抜けてしまう。

 

競合に対して「差別化」を図ることは、とても大切です。

しかし、差別化はあくまでも手段です。

目的は、顧客に興味・関心を抱いてもらって、選ばれる存在になること。

そして、その差別化が自社の強みとして一貫性を保てていること。

 

この3条件を揃えることが、漏れなく情報を精査するコツになります。

つまり「顧客」「競合」「自社」の3方向から戦略を煮詰めていかないと、どうしても「漏れ」が出てきてしまうのです。

絞ったところに「顧客がいなかった」なんて事にならないように、戦略を創り上げる前に緻密に詰めておきたい所です。

 

追伸

そうは言っても、莫大な投資をしてしまった後だから、もう後戻りはできないでしょう。

そこで、善後策を帰りの新幹線で考えて翌日ご連絡差し上げました。 その内容は・・・次回号で続きを書きたいと思います。