「面白いものですね。商品ラインナップを絞っても売上は20%増、営業利益率は2倍になりましたよ」
2年前にお手伝いをしていた企業から、決算報告が入ってきました。
当時、「爆発的に売れる新商品を発売しよう!」とお手伝いをし、まずまずの売れ行きを確保できたのですが、なぜか社長は浮かない顔。
その理由を伺うと、以前から抱えていた問題が新商品の好調とともに、余計に色濃くなってしまったとの事でした。
元々、第二の柱となるような新商品が欲しい!と思ったのは、社内にキャッシュとゆとりを生むためだったそうです。
それまで、市場のニーズに合わせて、商品ラインナップを増やし売上は右肩上がりだったのですが…
なぜか社員のモチベーションは低く、営業利益も思うように出せない。
その状況を打破する術だったのです。
ところが、結果は真逆に振れてしまいました。
- 納期遅延、出荷ミスなどによるクレームの頻発
- 生産現場の労働時間増加による疲弊
- 煩雑になった管理業務が影響している「やるべき仕事」の遅延
などなど、以前より状況は悪化。
新商品が売れても問題は全く改善されない。
そのため、新商品が売れ始めていても諸手を挙げて喜べなかったのです。
詳しい話を伺いながら、それなら…と、大胆に商品ラインナップをスリムにしていきましょう!と、進言し、1年かけて絞り込んだ結果が、今期の好決算の背景となったとのことでした。
そもそも論として、市場のニーズを拾いながら商品ラインナップを増やすのは、正しい経営判断のように見えますが、波及営業のフィルターを通すと誤った判断となるケースが往々にしてあります。
なぜなら、ニーズに合わせた新商品というのは、すでに類似商品があるケースが大半であり、単に不毛な競争に巻き込まれているだけの場合が多いからです。
仮に類似商品がない場合でも、問題は孕(はら)みます。
市場に迎合した戦略は、あるべき姿を追いかける企業家精神を蝕み、時代経過とともに、会社の方向性を見失わせてしまいます。
また、結果的に無政策となった商品ラインナップ政策は、顧客も社員も混乱させ、事業活動のパワーを減損させてしまいます。
商品ラインナップを増やす過程では、売上が伸びていても、時が過ぎれば足枷にしかならないことが往々にしてあるのです。
新商品開発には、様々なコストが内包されています。
商品を企画する時間(人件費)
設計にかかる時間(人件費)
部材調達コスト(流出コスト)
製造に関わる人件費
そして、目に見える広告宣伝費から、目に見えない営業コスト(人件費等)まで、膨大なコストがかかっています。
社外への流出コストは「痛み」として認知・記憶されますが、目に見えないコストは、後からボディブローのように効いてきます。
商品寿命が短く、償却する前に売上が減速する商品が増えれば、埋没コストが蓄積されるからです。
その上に、めったに売れないのに、緊急注文が入り現場が混乱すれば、それ相応の管理コストが上乗せされていきます。
顧客のニーズに合わせた商品ラインナップは一見、正しいように見えて、実際は経営に大打撃を加えているケースが往々にして存在しているのです。
これを見極める一つの方法として、商品別売上高の3年または5年推移を集計してみることをお勧めしています。
そして、その各々の商品が持っている「機能」を全て、お客様の「価値」に置き換えて、商品名の横に記述してみてください。
「機能」を「価値」に置き換えるのは、慣れていないと難しいかも知れませんが、3〜5名程度でディスカッションをすれば浮き彫りになります。
- 頑丈である → 3年間メンテナンス費用が掛からない。
- 軽い → 片手で持てるので、ながら作業が出来ます。
など「機能」を営業トーク(価値)に変換してみるのです。
すると、無駄な商品ラインナップがあることに気づかされる時があります。
作り手の価値ではなく、買い手であるお客様の価値で色分けすることがポイントです。
無駄なものは、思い切って廃盤にする。
あっても邪魔じゃないから…
と優柔不断な態度を捨てて、思い切って断捨離する。
すると、顧客は選びやすくなり、受注業務、生産体制の生産性も上がり、結果、売上利益が上昇するというロジックが働いていきます。
シンプルイズベストで高収益を上げている優良企業の姿勢を見ると、間違いなく「顧客の選びやすさ」と「受注、生産体制のシンプル化」を徹底させています。
御社でも、商品別売上推移表に「機能—効用変換」したワードを挿入し、一度商品ラインナップを俯瞰してみませんか?