「最近、受注の確度が読めないことが多くなりました。社長が独断で意思決定する企業が減っているような感じがします」
藤冨は、日本アイ・オー・シー以外の会社で営業マンを抱えた社長も兼務しています。
同社は私がサラリーマン時代にお世話になった上場会社と5000億企業が共同出資で作った合弁会社。
主だって、情報システムを販売しています。
その同社で営業部長を務めるK部長がしみじみと語っていました。
「最近の社長は、独断で意思決定する人がめっきりと少なくなりました。社員の意見を聞いてから。とか、一度会議にかけて皆の意見を聞きたい。など、自分で決めないですよね」と。
確かに藤冨も感じることがあります。
社長がトップダウンでぐいぐい引っ張る優良企業がめっきりと減っていると。
様々な時代背景がそうさせているのでしょう。
藤冨が社会に出た頃は、ブラック企業という単語すらありませんでした。
月100時間の残業なんて当たり前ですし、「お前日曜日休んだのか? 売れないのによく休めるな」なんてパワハラ発言も、日常茶飯事。
上司は、みな指導者として凛としていました。
が、今の時代でそんなことをしたら、労働基準局が目の色を変えてやってきます。
そんな時代背景もあって、社長をはじめとした上司たちも、部下をデリケートに扱わざるを得なくなっています。
その結果、社員が義務を果たす以上に、権利を主張するようになり、トップダウンができにくい「空気感」が蔓延するようになったのかも知れません。
また、未来が読みにくい時代になったことも、トップダウンが出来にくい背景となっているのでしょう。
- トランプ大統領誕生による世界情勢の不安定化
- 少子高齢化の進展によるビジネス基盤の変化
- 高度な情報化技術がもたらす競争環境の激変…
特に身近な競争環境の変化は、経営者にとっての意思決定を困難にしています。
業種やエリアといった競争の境界線が溶けはじめ、異種混合戦のビジネス環境となった今、未来が読みにくくなっているのは、ある種自然なことです。
自動車業界の特許件数が、グーグルに抜かされたトヨタ自動車の豊田章男社長も「正解が分からない時代。だが何もせず負けたくはない」と、打開策を模索している状況だと新聞に書かれていました。
だから、みんなの知恵をより集め、会社の方向性を決定しよう! という感じなのでしょう。
これはトヨタのような大企業であれば分かりますが、中小企業も、そこに引き摺られて良いのか?
藤冨にとっては、強い違和感を覚えます。
こんな発言をすると炎上してしまうかも知れませんが、私の本音を言います。
みんなの知恵を集めるのは、もちろん良いことです。
社長や上長の意思決定が矮小化しないために、俯瞰する材料として有用だと思います。
しかし、本質的には、社員では「正しい方向性」を見出し、正しく意思決定をすることは出来ません。
その理由は、3つほどあります。
1つ目は、自社の能力を正確に把握できないためです。
自社の能力を正しく理解していなければ、未来にどのような挑戦ができるか、なんて分かりっこありません。
財務などの経営資源をオープンにし、その状況を正しく読み取る能力がある社員であれば、正しい方向性を見出すことができるかも知れません。
が、それはレアケースです。
2つ目は、人間は自分に負荷がかかるような意思決定は避けるためです。
トヨタ自動車のように、ドラスティックに未来を切り開く必要性に駆られている業界では、今を捨てる勇気・自らを奈落の底に突き落とすような意思決定をしなければならないことの方が多いものです。
ところが、経営革新によって痛みを伴うような意思決定は、社員創案から上がることはまずありません。
ごく稀に、あるべき未来を切り開くために、寝食を忘れて仕事に没頭する社員もいますが、これも超レアケースのハズです。
3つ目は、元も子もない発言ですが、そんな能力があれば、その社員は早晩独立するハズです。
そもそも、会社のすべての経営資源が把握できる環境にいて、内部環境と外部環境を鋭く分析できる能力ある人材がいたとすれば、社員ではなく、すぐさま取締役に登用すべきです。
独立するのを断念するよう説得し、我が社とともに未来を切り開こう!と踏みとどまらせるべきです。
それが出来なければ、その社員は早晩会社を去っていくでしょう。
以上の理由から、藤冨は会社の未来を変えるような意思決定は、経営者単独または、ごく限られた経営幹部だけで意思決定をすることが「是」であると確信しています。
私が専門としている新規事業もそうですが、社員に負担のかかるような意志決定は全てにおいて、トップダウン型が有効です。
失敗すれば、社員の手前恥ずかしい状況に追いやられますが、それでもトップ自らが先陣を切ることが大切だと思っています。
未来が見えない時代だからこそです。
私が関与させていただいている企業の大半はトップダウン型の組織ですが、皆良好な業績をあげています。
未来が見えない時代だからこそ、トップが引っ張って、業績をあげています。
御社は、トップダウン型ですか、それとも時代に引き摺られてボトムアップ型を「是」としていますか?