「今度、会社の成り立ちを冊子や映像化して、もう一度会社の存在意義を再認識しようと思っています」
長年、顧問をさせていただいている会社の定例会に参加した際、次なる構想の会議が開かれました。
周年記念の一環として、さらに会社の原点となっている事業の活性化のため、そして、社員を鼓舞させるため…
まさに一石三鳥の計画です。
別な企業で、コンサルティングをしていた際、会社の業績が芳しくないと社長自らが、社内セミナーを実施した企業がありました。
私のセミナーに参加して、「なぜ、あんなに長時間話せるのか?」「どのように構成しているのか?」「吸い込まれるような話の仕方のコツは何か?」 矢つぎ早に質問をされてこられた方がいました。
普通、「自社商品を成功させるための質問」や「営業体制の刷新方法」「営業マンの意識改革」などの質問が多い中、なぜか「話し方」の質問をされてくるので、逆にご質問をしました。
「なぜ、話し方にご興味を持たれているのですか?」と。
すると、「会社が急成長して社員数も多くなりました。ところが事業が踊り場に差し掛かっているので、次のステージに飛躍させなければならないのです。」
「しかし、役員までもが“事なかれ主義”に陥ってしまって… 最初は、営業体制を刷新するために新しい営業法を学びに来たのです」「でも、話をずっと聞いていて、やるべきことが決まりました。私が陣頭指揮をとり直そう!」と。
お話を聞いて、こちらが震えました。
もちろん、武者震いです。
組織が大きくなると、今起きている問題を見て見ぬふりをしたり、あえて手をつけずに様子を伺うような人たちが多数出現してきやすくなります。
いわゆる「事なかれ主義」なのですが、これは「出る杭を打つ空気」が蔓延していると、自然と出来上がってしまう恐ろしい伝染病です。
経営トップが気をつけていたって、中間管理職に会社の成長に懐疑的な人間がいたり、社内での足の引っ張り合いが起きると自然発生してきます。
事なかれ主義は、ボディーブローのように効いてきます。
成長推進のオモリとなるために、いくら表面的には元気に見えても、徐々に活力が失われていきます。
まるで船から投げ出された錨(イカリ)のように、成長推進を阻害していきます。
この主原因は、社員が自尊心を守るための籠城です。
人間は、自尊心が崩壊すれば、自殺にもつながるために、無意識的に自尊心を守ろうとします。
生物としての生命維持活動ですから、自尊心を守る籠城は、極めて強固です。
これが、10人単位、100人単位で同時発生すれば、それは、それは恐ろしいほどの「成長推進のオモリ」になります。
冒頭、私のセミナーに参加をされ「話し方」に着目をした社長は、この表面化していない「問題の本質」に気づかれていました。
「社員は武器がなければ戦わない」
「人間は、負け戦だと感じると十中八九逃げる」
「だから、波及営業で言う“営業の武器”が必要」
という言葉に刺激を受け、社長自らが立ち上がり「武器はここにある!」と社員を鼓舞しようと思われたそうです。
ドラッカーの著書「変革の哲学」でも、指摘されています。
「技術変化が劇的でない事業ほど、組織が硬直化しやすい。それだけにイノベーションに力を入れる必要がある」と。
成功したイノベーションのうち、90%は「目的意識」「体系」「分析」によるものだとドラッカーが指摘しているとおり、同社社長は「目的意識」を持って社内にイノベーションを起こそう!と決意されました。
そして、創業時から続いている「事業の魅力再考と存在意義の再確立」「売上拡大に向けてのロードマップ作成」を行った後、社長自らが発信していく計画を作り上げました。
すごいのは、1回話をしただけではわからないとの認識から、何と52回ものテーマ設置を行って1年間かけて「事なかれ主義を打破するための意識改革プロジェクト」を企てたのです。
さらに、全社員集まることが不可能だったために、たまたま自社開発していた「e-ラーニング」というネットで視聴できる仕組みを活用し、講義内容を藤冨と二人三脚で作り込んでいきました。
ただ、これも一方通行では効果をなさないと感じ、フィードバック・システムも取り入れてみました。
小グループを作って社長が言ったことを共有し、討議することを必須とし、5名単位のグループリーダーが社長に「感想とチームが取り組むべきことや考え改めたことを発表する」場を設けたのです。
この効果は絶大でした。
1年待たずして、業績は拡大していきました。
社長曰く、チームのフィードバックが優秀であるチームほど、活躍が目覚ましかったとのことでした。
事なかれ主義の本質は、危険回避です。
なんども申し上げますが、自尊心を守るための、籠城作戦です。
これを打破するために、
「自尊心の正体」「変化をしないことが最大の危険」「チャレンジこそが人生を豊かにする」
こういったイノベーションの土台をしっかりと作った上で、事業の話をしていく。
そして事業の話では
「価値の交換が仕事の本質」「自社が成長してきた原資(価値)の意味付け」「誰より(競合)も、魅力的な価値を作りだす意義」
などの仕事に対する姿勢を徹底して伝えていきました。
52回の講義構想が途中何度も変更になり、てんやわんやの1年間でしたが、社長自らが伝える言葉には、魂がこもっていたために、素晴らしい人材だけが残っていきました。
そう、途中で8人もの中堅社員が辞めていきましたが、おそらく「事なかれ主義」の発生源だったのでしょう。
「給与の高い社員が、成長の阻害だったとは笑えないよね」と後日談をされていましたが、これは多かれ少なかれ多くの企業に見受けられる傾向ではないでしょうか。
メルマガにも書きますが、日本人の精神構造そのものが、事なかれ主義を生む土壌になっているからです。
御社には、成長を阻害する「事なかれ主義」は、はびこっていませんか?
追伸
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