「我が社も新商品の販売に苦戦していまして…うちの営業をちょっと見てもらえないでしょうか?」
以前、セミナーにご参加された社長からご相談が舞い込んできました。
早速ご訪問して、営業の方へのヒアリング、顧客に提示しているパンフや提案書、さらにWEBサイトと、「顧客接点となる全てのセールス・メッセージ」を拝見しました。
あまりにも綺麗にセールスツールを作り込んでいたので、思わず「素晴らしい!」と唸ってしまいましたが…
同時に、売れない理由もおぼろげながら透けて見えて来てしまいました。
チラシ、WEBサイト、営業の方が座商談で説明するときの提案書の美しさは、それは、それは目を見張るほどの完成度です。
たまたま販売促進のコンサルティングを行っている社長の娘さんのご主人が、作ったそうで、さすがの一言。
ただ、結果は思うように売れない。
先週の「新規事業がうまくいかない時のリーダーシップのあり方」を読んで、きっと私に原因があるのでは…とお感じになったそうですが…
お話を伺っていくうちに原因は全く別にあることが分かりました。
と言うのも、営業マンの皆さんに、どうやって商談していますか?と「ロープレ」を聞いたのですが、チラシやパンフレット、ホームページに書いてあることをベースに「トーク」が組み立てられていたので、全く響かない。
売れる匂いもしてこないロープレに、問題の根幹は「最初の一歩」が間違っていることを察知したのです。
私が捉えている新商品という概念には、大きく分けて2種類のタイプがあります。
この2種類のタイプは、似て非なるもので、セールス・メッセージを間違えると、全く顧客のハートに響かないメッセージになってしまいます。
その2種類のタイプとは、一つは「革新型」。
もう一つは「進化型」です。
「進化型」の商品をイメージしやすいのは、iPhoneです。
2007年にApple創業者のスティーブ・ジョブズが「電話を再発明した!」と革新的なイメージで発表した商品ですが、消費者から見れば「進化型」であると定義される商品です。
なぜなら、電話とメール、そしてインターネット端末が三位一体となった電子デバイスがiPhoneのコンセプト。
このコンセプトの原点は、iPhoneが誕生する13年も前にIBMが設計開発した「Simon」という商品が「携帯とPDA(携帯情報端末)」をドッキングさせた最初の商品だと言われています。
その後、アメリカのビジネスマンには大ヒットしたと言われる「ブラックベリー」なども同じコンセプト。
iPhoneの新商品お披露目会でも、ブラックベリーなどの使いにくさをアピールして、自社商品の優位性をアピールしていたくらいですから、決して「革新型」の商品とは言えないはずです。
進化型の商品は、お客様の脳みそに「購入メリット」がイメージしやすいのが特徴です。
なので、セールス・メッセージは、「これまでとは違う!」という斬新さをアピールすればよく、詳しい説明はあまり必要ありません。
したがって、チラシやホームページ、提案書も、格好良さを優先させてよく、シンプルさが顧客のハートに響くメッセージとなり得るわけです。
しかし、今回ご相談いただいた会社の新商品は、全く新しいコンセプト。
つまり「革新型」の新商品だったのです。
進化型ではないので、買い手は「購入メリット」のイメージがおぼろげであるはずです。
なんとなく良さそう…と感じても、対価を払って、メリットを受け取るという「取引」となると、シビアに判断され、購入を躊躇されてしまう。
「革新型」をイメージするときの典型例は、今流行りの「ブロックチェーン」です。
ビットコインの中核技術として知られていて、IT企業のリーディングカンパニーであるIBMが頻繁に技術紹介セミナーを開催したり、みずほ系の企業が「貿易取引の仕組み」を開発しようとしたりと、関連業界の中で盛り上がっているもの。
インターネットと同等、またはそれ以上に「革命」を起こすとものとして、世間を賑わせていますが、その正体はイマイチ理解されていません。
何に活用できるのか?
何が、顧客メリットになり得るのか?
具体的なイメージまで描けている人は、まだまだ少数派です。
極端な例かも知れませんが、「革新型」の新商品というのは、これと同じ概念で、買い手には写っているわけです。
「なんか、凄そうだけど。ウチにとっての具体的なメリットは何?」と。
この時に、進化型新商品と同様、シンプルなメッセージだけで、売れるでしょうか?
答えは火を見るより明らかなはずです。
よく、商売人の間では「一歩先行く商品は売れないが、半歩先の商品はよく売れる」と言います。
この差は、買い手の認知です。
対価を払うだけのメリットが得られるのか?
購買行動に影響を及ぼす本質は、この1点だけです。
進化型は、認知しやすいので、メッセージがシンプルでも売れる。
つまり、極端に言うと、誰でも売れる商品。
しかし、革新型商品は、技術、エビデンス(証拠)など、顧客メリットを与える「理由」をしっかりと説明する必要があります。
購入したことから得られる顧客メリットを「なぜ、それが実現できるのか?」を論理的に説明し、拡販の突破口をこじ開けないことには、売れていきません。
これは、藤冨自身が、20代、30代の営業マン時代に痛感したことでもあり、今様々な業種の企業とプロジェクトをご一緒にするたびに、注意している視点でもあります。
御社では、新商品のセールス・メッセージを作り込む際、顧客の認知という視点にまで、しっかりと心配りをしていますでしょうか?