とことん「本質追求」コラム第264話 下請け企業の新規開拓を困難にする3つの理由

 

 

 

『自社ブランド商品を作らないと、波及営業は使えないでしょうか?』

 

先日、弊社主催のセミナーにご参加いただいた方からのご質問です。

 

下請け加工業を営んでおり、営業の姿勢は御用聞きタイプ。

それゆえ、利益率の低さと受注量のバラツキに悩んでいるとの事でした。

 

その悩みを解決するためには、営業の強化が必要。

たまたまDMが舞い込んできた『波及営業』なら、その営業強化ができるかも…と興味を抱かれご参加いただいたようです。

しかし、6時間のセミナーを聴いたあと、単に営業だけを強化しても根本的な課題は解決されないことに気づかれたようです。

 

そう!お気づきのとおりです。

下請け企業の新規開拓は、構造的に難しい背景が横たわっているのです。

これは、下請け企業の営業改革のご相談をこれまで何度も受けてきた中で実感した事です。

 

その新規開拓を困難にしている背景は、3つあります。

 

1つ目が、期待段階での差別化が困難であること。

2つ目が、要求事項は顧客が握っておりオープンにされないことです。

3つ目が、既存業者への発注は暗黙知が通じるということです。

 

 

まず1つ目の期待段階での差別化。

売り手側でのセールス・アピールは「短納期」「高品質」「小ロット生産または大量生産」など、競合他社との“違い”を明確に打ち出すことができません。

カタチがないのですから、ある意味当然です。

 

「我が社は、違うのです。他社は3日かかるところ、ウチは1日で出来ます!」と言ったところで、買い手にとってみれば「依頼してみないと分からない」つまりお金を払ってみないと、本当に短納期か分かりません。

 

まぁ、最初は1日でやってくれるだろうけど、持続性があるかどうか、正直言って懐疑的。

そんな不安が、買い手側にあるのは、至極当然のことです。

 

 

そもそも論としても「1日納品」なんて、繁閑状況によっては保証なんてできませんから、最初から謳うことはできない…。

 

だから、問い合わせをしてみないと分からない。依頼してみないと分からないという状態に買い手は陥るわけです。

 

期待段階での「他社との違い」を表現することが難しい。

 

 

これが新規開拓を困難にする1つ目の理由です。

 

2つ目の要求事項は顧客が握っておりオープンにされないことも根深いテーマです。

 

これまで幾度か下請け企業の営業改革をお手伝いしてきましたが、「その素材は、どのような利用用途なのでしょうか?」「その部品は何に使われているのですか?」と藤冨が質問すると、大半の社長さんは、「それが分からないのです…」と答えるのです。

 

これは、ある意味恐ろしいことです。

 

当たり前のことですが、売上というのは、1件1件の受注の積み重ねです。

その1件1件の受注を決める「見積もり」は、相手からの「こんな事、できますか?」という要求から起算され、そこには「どのような価値があるのか?」は明かされないケースがほとんどです。

 

 

「溶接加工をしているけど、これを折り曲げ加工して欲しいんだ」

「今の加工法だと隙間ができるから、これを無くしたいんだ」

 

などなど、ある程度の「目的」は見えても、要求事項の真の理由までは見えないケースがほとんど。

 

新規開拓の段階において要求事項の真の理由が分からなければ、付加価値のある提案もできません。

 

つまり、商談時において刺さる提案ができないケースがあまりにも多いのです。

 

これが2つ目の理由。

 

最後の3つ目の理由は、既存業者への発注は暗黙知が通じるので、担当者は「発注」が楽チンだという事です。

 

新しい業者に依頼をしようとすると、一から「自社の要求」を説明しなくてはなりません。

 

そんな余計な仕事は、できるだけ避けたいのが、担当者の心情です。

 

多少コストが高かろうが、担当者からすれば自分の懐が痛むわけではないので、目を瞑ります。

 

 

多少納期に不満があろうが、自分の仕事に火の粉が降りかからなければ、特段騒ぎ立てません。

 

よほど経営意識の高い担当者以外は、正直そんなものです。

 

つまり大きな不満がない限り、業者をスイッチしようなんて思わない。

 

これが新規開拓を困難にしている3つ目の理由です。

 

 

 

 

 

これらの壁を乗り越えるためには、足繁く新規見込み客のところに通い、自社の得意分野や実績を知ってもらい、ご用は無いでしょうか?とお伺いを立てるほかありません。

 

うまく仕事がもらえても、受注価格の主導権は「買い手」が握っているので、もらえる利幅には限界がある。

 

 

新規開拓は困難。

潤沢な利益を会社に流入させる受注は、さらに難しい。

 

 

これが「下請け企業の営業上の課題」です。

 

 

冒頭にお話ししたセミナーにご参加いただいた社長さんも、この構造的な課題に気づかれ「自社商品を開発し、商品に名前をつけ、価格を自社で決めて販売しないと、強い営業はできないのでは…」と察したようです。

 

 

カタチや数字など、目に見える差別化ができれば、下請け構造であっても、まだ強いプッシュセールスは効くかも知れません。

 

しかし、業界的にそれが難しい場合。

かつ、自社の手のひらで仕事ができる企業になりたい…そう強く願うのであれば、間違いなく、自社商品を開発し、名前と価格を自らが決めて販売するほかありません。

 

 

下請けモデルからの脱却は、決して優しい道ではありません。

それでも、構造的な問題が横たわっている限り、いつまでたっても悩みは消えません。

 

御社は、どこに活路を見出しますか?