「このビールグラスを藤冨さんなら、どう売りますか?」
先週、経営者の集いの場で、乾杯直後に唐突に質問されました。
飲み会が始まる前に、「営業実践報告会のアドバイザー」として発表された社長さんにコメントをしていたので、それを聞いていた他の方が不思議に思われたのでしょう。
「なぜ業界も商品も知らないのに、売れる・売れないの助言が出来るのか?」と。
ご質問をされた方は、純粋に興味本位で聞かれていましたが、時々、講演会終了後の懇親会で、挑戦的な質問をされる方もいるので、こういった突然のフリには慣れっこです。
皆さんなら、どうでしょう。
なんの変哲もない「ビールグラス」をどう売るか?
このとき、すぐに売り方を考えても、売れるアプローチには繋がりません。
ネットがいいですよ!とか。
居酒屋にFAXDMを打ちましょうとか…。
などなど、手段を考えるよりも、先に抑えないといけないことがあります。
それは、「この商品は、誰にとって、どんな貢献をするのか?」というセールスメッセージを作る根幹を見極めることです。
例えば、ビールグラスなら、「なぜ、取っ手が付いているのか?」「なぜ、この厚みが必要なのか?」「なぜ、底に“くぼみ”があるのか?」 構造や機能を一つずつ丁寧に拾い上げ「なぜ?」を繰り返していきます。
これは、構造や機能の「制作意図」を掘り下げるためです。
その「制作意図」には、こうした方がより良くなる!…という企画・開発者の想いが詰め込まれています。
その想いとは、貢献意識。
つまり「顧客メリット」の想定です。
取っ手が付いているのは「ビール」を温めない配慮だと想定できます。
厚みがあるのは、洗っている最中に割れて怪我をさせない配慮かも知れません。
底に“くぼみ”があるのも、熱伝導率を抑え温めない配慮でしょう。
ここで気づくのは、登場人物は2名いるということ。
つまり、ビールジョッキを使う人と提供する人です。
お金を払うのは、提供する人です。
冷えたビールを美味しく飲んでもらいたい飲食店経営者です。
冷えたビールを美味しく飲んでくれれば、リピーターになってくれるかも知れません。
そう考えると、ビールジョッキを購入するメリットは、極論すれば、「飲食店オーナー側に立った際の顧客満足の獲得」だということが見えてきます。
ならば、「ビールジョッキそのものを売る」のではなく、「冷え冷えのビールを美味しく飲める…しかも割れにくいジョッキ」を売ることに着眼したセールスアプローチをすることが、メッセージを作り込む「根幹」になくてはなりません。
思考を煮詰めて、煮詰めて、煮詰めまくって、最後に残ったものが、パンチ力の強いセールスメッセージになります。
こういった思考回路は、営業だけでなく、商品をつくるときにも必要不可欠です。
先日の「営業実践報告会」でも、もっと売れる商品に仕上げるためのリニューアル案を聞かせてもらいましたが、「顧客メリット」に直結しない要素を付加されていました。
でも、このアプローチだと足し算にしかなりません。
足したものが魅力的であれば、それを気に入った人は購買するかも知れません。
しかし、お客様がお金を払う瞬間から逆算していけば、もっと本来の顧客メリットを追求した要素を付加していった方が、かけ算でお客様の心を揺らすことができます。
分かりやすい例として、インスタントのカフェオレを題材にしてみましょう。
最近は、ダイエット志向の人口が増えてきているので、砂糖ではなく「太らない新しい甘味料」を使っているのが、その商品の特徴です。
でも売れ行きは芳しくありません。
なので、パッケージにキャラクターを印刷して販売することにしました。
どうでしょう?
キャラクターが気に入った人は購入するかも知れませんが、そうでない人はより購入しなくなる可能性もあります。
それに元々のコンセプトは、太りにくいカフェオレです。
であれば、牛乳ではなく「豆乳を粉末にして入れました」と謳った方が、顧客のメリットの延長線上にあるため、購買意欲が増幅していくはずです。
太らない甘味料+キャラクター=答えはなに? ってなります。
でも、
太らない甘味料+豆乳=よりダイエット効果の高い飲料 になります。
太らないという顧客メリットがかけ算で効いてきます。
こういう「切り口」を作り、磨き上げていくことが、売上増に直結する一番のポイントとなります。
私が様々な業界や商品と向き合うときには、必ずこの「顧客メリット」を徹底して煮詰めていく質問を繰り返します。
業界の中にどっぷりと浸かっていると、習慣となっているアタリマエのことは、深く考えず、煮詰める作業をしなくなります。
私が「なぜ、それはそうなっているのですか?」と質問すると、パッと答えが出てくるケースは少なく、「アタリマエのことだから深く考えたこともない」ということが本当に多いのです。
灯台下暗し。
売れるヒントは、必ず「足もと」に転がっているもの。
御社では、自社商品の「顧客メリットの追求」を徹底して煮詰めていますでしょうか?