とことん「本質追求」コラム第224話 経営方針を変えると社員は本当に戸惑うのか?

 

 

「それは面白いです! ぜひトライしてみたいのですが… 先月の方針発表会で社員に説明した方向性とズレてしまいます。 悩ましいところです」

 

クライアント企業さんの事業をじっくりと観察しながら、ディスカッションをしていると、これまでとは“ちょっと”違う戦略を採用した方が、粗利益率が間違いなくあがる「方向性」が見える事があります。

 

悩ましいと頭を抱えた社長さんは、コンサルティングに入るまえのヒアリング段階で、それが見えてしまい、社長も「確かにその通りだ」と合点がいったご様子だったのですが……。

 

ちょうど1ヶ月前に社員を集めて、新商品の事業方針を説明したばかりだったので、今さら変えるのは気が引ける…ということでした。

 

まだ、アイディアレベルなので、社員への説明などは考えてなくても良い段階だとは思いましたが、しっかりと取り組ませて頂くためには、やっぱり、私と社長の息(リズム)、思考、判断基準があっていないといけません。

 

これまで、様々なプロジェクトに関与させて頂きましたが、上手くいくケース、結果の出るケースは、リズムも、思考も、判断基準も似ている社長が大半でした。

 

なので、この「気が引ける」という思考も、一度ひも解いてみて、私との相性をお互い認識しあおうと思い、こう切り出しました。

 

「ちゃんと調べないと分かりませんが、この事業の方向性は本当に儲かると思いますか? 私は一般的な顧客の思考回路を想定しているので、ちゃんと摺り合わせないと分かりませんが、こういった提案を既存顧客にしても乗ってくると思いますか?」と。

 

すると「いけるでしょう。いまウチのメインユーザーさんなら…」と具体的なイメージまで描けるほどの方向性です。

 

ちなみに、私とディスカッションするまえの方向性…つまり社員に発表した企画は、正直いうとイマイチ自信が持てなかったとのこと。

 

そのため、社員を鼓舞してやる気になってもらおうと方針説明会を開いたとのことでした。

 

 

で、「社員は鼓舞され、“やってやろうぜ!”という空気になったのですか?」と伺うと、「それが…」と心もとないお返事。

 

 

「であれば、決まりましたね。成功するプロジェクトは、脳みそに具体的な成功イメージが描けるときだけです。これは営業もそうです。営業で成功イメージが描けないときは、ほぼ上手くいきません。イメージが出来るものをやりましょう」

 

 

と進言すると、「ただ、方針がコロコロと変わるのは、社員が混乱するのでは…」とおっしゃるので、「体裁を保たなければいけない理由はありますか? もし無ければ、成果にコミットしたいものです」とお伝え申したところ…

 

過去に方針を変えざるを得ない出来事があったとき、トップセールスから苦言を呈された経験があったことを告白されました。

 

なるほど…合点がいったのですが、どうもそれがトラウマになっているらしく、ここまで詰めても煮え切れないご様子だったので、「また気が変わったら、ご連絡ください」と言い残して退散させて頂く事にしました。

 

このコラムを書く事もご了承頂いたのですが、私は、成果にコミットできないプロジェクトは組まない方が良いと考えています。

 

方針がぶれようが、戦術が変わろうが、成果を出す事に集中しなければ、結果がでないことが多いからです。

 

そもそも、前提条件が変われば、意思決定も変わります。

 

簡単な話、競合がいないと思っていたところに、強力な競合がいたら、すぐさま別な代替案を検討する必要があります。

 

意味深い事例があるので、ご紹介しましょう。

 

外食産業向けのシステム販売をしていたサラリーマン時代のことです。

とある新興チェーンの役員が、こんな話をしてくれました。
「ウチは、新規出店計画をしている場所の近くに、競合のA社(老舗の最大手和食ファーストフードチェーン)も参入するという情報を握ったら、建設中でも撤退するんですよ!」と。

 

数千万円にものぼる資金を、一瞬の判断でドブに捨てるというのは、「将来は必ず勝つ!」という意気込みがないと出来ませんよ!と、 笑いながら話してくれたのですが、私には、強烈に記憶されました。

 

案の定、その会社は、業界トップへとのし上がりました。

今はお付き合いがないので、最新情報を知りませんが、今なら間違いなく新規出店場所に競合が参入しても、そのまま新店をオープンさせているはずです。

(見ていれば分かるので)

 

前提条件が変われば、意思決定も変わるのが「正解」です。

 

そこに確固たる自信が持てないのは、プロではありません。

 

それまで情報が不足していて、新たな情報入手で前提条件が変わったら、意思決定が変わるのは、当然のことです。

 

それも理解できない幹部がいて、社長に苦言を呈すようなら、平社員に降格すべきです。
体裁ばかり気にする役員は、守りの姿勢が強く、真の意味で市場への貢献なんて出来ません。

 

市場に貢献出来なければ、当然ながら売上もたちませんから、企業の未来は矮小化してしまいます。

 

そのロジックが、パッと理解出来ないようであれば、役員である必要がないと思いませんか?

 

新規事業は、自社が儲けるためだけのものではありません。

市場に価値を提供して、利益を出すのですから、立派な社会貢献です。

 

そこに集中していくのが、企業のあるべき姿ではないでしょうか?

 

 

御社は、体裁ではなく、市場に価値を提供することに集中出来る「企業文化」を育んでいますか?