「会社として《自社の強み》を明確にしないでセールスさせるのは、営業マンが可哀想です」
先日、滋賀県で講演した際に口走った私の言葉に、リフォーム業を営む経営者がピピッときたようです。
講演終了後、質問にお並び頂き1時間近くもお待ちになって頂いた最後の方でした。
「おっしゃる通り、売れる営業マンは売れるけど、普通の営業マンは苦労をしています。確かに可哀想なことをしているかも知れません。ちゃんと会社としての強みを明確にして、もっと戦略的に営業を捉えなければと思いました。そこで…今日の話をウチの会社に置き換えると…どう解釈すればよいでしょうか?」と、強い問題意識を持って、名刺交換に訪れてこられました。
私が専門にしているのは「法人営業」で、講演でお伝えする事例には、「個人営業」はありません。
それでも、波及営業の新規開拓ロジックが気になっているので、何とか概念を取り込めないかとご質問にこられたようです。
同社にとって、絶対的に取り込めないであろう概念が、「あの人が買ったのなら、良い商品(役務提供)に違いない」というインパクトユーザーを引っ張り出せないとのこと。
そもそも、リフォーム市場において、新規開拓が有利に働くようなシンボル的な顧客の見当が私もスグには想像できませんでした。
しかし、顧客のネームバリューがなくても「顧客インタビュー」は新規開拓ツールとして、高い効果を発揮することがあるので、インパクトユーザーと言う概念を外す事はできません。
と言うより、営業戦略の基盤を作る上で、この顧客インタビューは非常に重要な示唆を与えてくれるので、欠かす事のできないステップとなります。
その旨をお伝えした上で、リフォームとバックリ括らずに、「ウッドデッキを作った家庭」「外壁塗装を実施した家庭」「お風呂のリニューアルをした家庭」など、施工分野別に顧客をピックアップして、取材することをオススメしました。
理由は単純です。
施工依頼をする「背景」や「目的」、「他社との比較検討後の印象」「受注決定要因」「施工後に感じたメリットや利益」などなど、それぞれ異なるからです。
顧客の悩みや商品の購入を検討する背景が違えば、例え同一商品であっても、顧客にとってみれば、全く別商品に見えるものです。
だからこそ、その琴線に触れるように施工別に分類した取材を行って、顧客の心理や現実を徹底的に掘り下げて聞き出すことが肝心なのです。
なぜか?
それこそが、「自社の真の強み」に繋がるからです。
勘違いしてはいけないのは、こういった話をすると「お客様の声」と混同することが多いので注意しなくてはいけません。
「お客様の声」と「顧客インタビュー記事」は雲泥の差どころか、そもそもの目的さえも違うのです。
冷静に考えると分かります。
みなさんも、お客様の声や他の人が買ったレビューを “読もう”と思った瞬間の購買心理プロセスが、どの段階であるかを意識してみてください。
「この商品(サービス)、いいな。欲しいな…」と《欲求》が駆り立てられたあと、この買物は失敗しないか…と担保を取るために読んでいるのではないでしょうか?
平たく言うと「お客様の声」は、失敗しないための保険なのです。
反面「顧客インタビュー」は、違います。
「顧客インタビュー」を読むことで《欲求》を駆り立てることを目的にしています。
欲求が起きた後の保険ではなく、欲求そのものを刺激するのが、顧客インタビューの役割です。
購買心理プロセスの「AIDMA」で表現すると、「A(注意)」または「I(関心)」を刺激しているのです。
※AIDMA
商品を認知し、購買に至るまでの心理プロセス。
Attention(注意)→Interest(関心)→Desire(欲求)→Memory(記憶)→Action(行動)の段階を経て、購入に至る。
営業活動においては、上位(注意から順番に…)のボトルネックを外す事で、行動(契約)できる確率が上がっていきますので、上位への刺激に最も神経を注がなければなりません。
「顧客インタビュー」その上位刺激をする役割を担っています。
しかし、「お客様の声」は、D(欲求)が喚起されたあとのフェーズですので、セールス活動のなかでは、重要性が低くなります。
「お客様の声」を制作者が加筆・修正するのであれば、もちろん上位刺激は可能になるでしょう。
しかし、お客様の声を編集するのは倫理上、御法度です。
反面、インタビューは編集を前提としているので、こちらの意図に従って文書を綴る事が出来ます。
また、そもそも論として、自らの購買行動を振り返れば分かる通りに、購買において背景や目的、購買選択基準などを整理して契約や購入することはありません。
大半は、意識化されずに購買行動を起こしています。
そこを意識化させて文章化できるのは、取材しかありません。
取材・インタビューによって、自社の《強み》を浮き彫りにして、さらに《欲求》との紐付けを行い《時代性》を織り込むことで、営業戦略のスタートラインとなる「自社にとって有利に戦える市場」がクリアになっていきます。
このスタートラインこそが、事業の成否をわける分岐点となるのです。
御社では、自社の顧客に「なぜ当社の商品(サービス)を購入しようと思ったのか(目的)」「なぜ、その目的達成を駆り立てられたのか(背景)」そして「購入前に迷ったこと、他社商品との比較検討の有無、買ったあとの感想」などを客観的な情報として入手していますでしょうか?
そして、そこから強みを明確化し、セールス活動に活かしていますでしょうか?