「新規事業の発想の背景が《金儲け》で何がいけないのですか? 企業は利益がないと社員を喰わせていけません。精神論では組織を維持できないのです」
先週のコラム「ストップすべき新規事業と、立て直せる新規事業の違いとは」を読んだ読者さんからメッセージが届きました。
私が書いた意図と異なる解釈をされていたので、この場を借りてこのテーマを深掘りしてみたいと思います。
藤冨は、利益を稼ぐことが悪いなんて一言も言っていません。
逆です。
金儲けに焦点が当たりすぎると、かえって利益が稼げなるケースが多い…申し上げているのです。
具体例を持ってお話しましょう。
タイミング良く、郵便局の新規事業(?)のポスターが目に飛び込んできたので、これを題材にして「利益を稼ぐ新規事業」を考えてみましょう。
これです ↓
高齢化社会に伴い、孤独死などが問題になっています。
そうした背景をもとに、遠くは離れた親や親戚の安否確認を行うサービスを郵便局が手掛けていました。
とても立派な事業です。
単なる金儲けで発想された訳ではないでしょう。
ただ、藤冨がこの新規事業企画を決済する立場だったら、即刻却下します。
「もう少し考えろ!」と。
なぜなら顧客側から見ると、このポスターを見る限り「郵便局の職員を喰わせるためのサービス」にしか見えないからです。
そもそも、月1回の安否確認だけで、顧客ニーズが満たされるのか…疑問に感じるのは私だけではないハズです。
毎日なら分かりますが、仮に訪問した翌日から具合がわるくなり、1ヶ月後に訪問した時には《あとの祭り》…ではお話になりません。
これは顧客視点が抜けてしまっている典型的な例です。
これでは「単なる金儲け」と判断されても、致し方ありません。
これを顧客視点でもう一度「新規事業」として練り直してみます。
例えば、毎月1回ゆうパックで「感謝の気持ちを届けるサービス」。
どこか商品を提供できる販売者と提携して、頒布会のように商品を届けるのです。
- 頒布会:会費制によって定期的に商品を届ける通信販売の伝統的な方法。
絵画、食器、食品などで広く採用されている。
これなら、配達員の人達も気兼ねなく訪問できますし、「郵便」という事業コンセプトとの親和性も高まります。
商品でなくても、孫などの写真をハガキにして届けるサービスでもイケるでしょう。
こうしたサービスにプラスαの付加価値としての安否確認なら新規事業として成立しやすくなります。
ちょっと、郵便局員の気持ちになって考えてみて下さい。
「安否確認のサービスを始めました。月●円です。ご利用になりませんか?」
なんか、押し付けがましく感じて、私ならチカラが入りません。
では、頒布会ビジネスの営業トークを考えてみましょう。
「親御さんに毎月感謝の気持ちを届けませんか? 配達員が直接お届けするので、何か健康の不安とかあったら、状況報告のフィードバックも出来ます。お届けする商品は、これが●円、これが●円で、ネットで写真をアップしたらハガキにして配達するサービスなら、●円でできます。いずれか、ぜひご利用になりませんか?」
これなら、商品やサービスを単に販売するだけでもなく、安否確認という良いこともしているようで、オススメする側としても、気持ちよくセールスできます。
届けられるおじいちゃん、おばあちゃんも、喜び笑顔が目に浮かびますし、贈る側も喜ぶ笑顔をも想像すると、顧客だけでなく、配達する人達も嬉しくなります。
オススメしやすい企画になれば、当然ながら売上はあがります。
また、こういった新規事業であれば、ビジネスモデル的に見ても、収益性は高まります。
毎月送ってもらったお礼に、おじいちゃん、おばあちゃんから、孫達にプレゼントを贈る事だってあるでしょう。
行きの配達料金だけでなく、帰りの『ゆうパック』の受注まで期待できます。
さらに提携会社からの販売手数料も入ります。
このように、顧客や働く人達の感情に移入しながら自社の事業モデルを突き詰めると、金だけの新規事業よりも収益性の高い事業に生まれ変わる可能性が高くなります。
波及営業では、商品そのものではなく、価値を伝播させていく視点が重要になっていくので、クライアント企業さんとのプロジェクトでも「商品の見せ方」を変えたり、上述(郵便サービス)のように、+αのサービスや商品を付け加えたりすることがよくあります。
すると、プロジェクト前の収益性よりも、結果的に粗利益が増え、魅力的な事業モデルに生まれ変わっていきます。
目先だけ(金儲け)を見ると、必然的に視野狭窄に陥ります。
しかし、顧客やノンカスタマーに目を向ける事で、必然的に視野が広がり、発想も豊かになっていきます。
そういった意味で「金儲け」から新規事業アイディアを出すのではなく、顧客視点からみた自社が取り組むべき課題としてアイディアを出して行った方が、利益は稼げると申し上げているのです。
御社では、顧客視点が抜け落ちないための体制づくりに着目・着手していますでしょうか?