
「今まで、何度も考えてきたテーマだから、いまさら議論したってムダですよ」
ある商品が、どの市場、業界で最も売れるのか…つまり横展開を成功させるためのコンサルティング現場で、既存顧客のバイイングポイントや社員の皆さんが想定していることを引き出すプロセスをしているときに、出た発言。
正直言って、呆れ返ってしまいました。
と言うのも、「ある特定の機能が、お客様にどのようなベネフィットを与えているのか?」を発言してもらおうと思っているのに、全く顧客の目線に立てずにいるのに…その発言なのです。
真剣にテーマに向き合えば、どれだけ議論を尽くしても尽くし足りないはずです。
例えば、「ドリルを買いに来た人が求めているものは、ドリルではなく穴である」という名言があります。
「分かっていますよ、それくらい!」と発言する人は、たいていの場合その段階で思考が停止しています。
そのような人は、思考が浅いために、表面的な解釈に止まり「穴がほしいだけですよね…」といったような言葉しかでてきません。
なぜお客様は「穴」を求めているのか…ベネフィットは深掘りすればするほど、「営業」や「販売」に際してのヒントを与えてくれるものなのです。
決して、思考を停止してはいけません。
実際、穴を欲しがっている人には、様々な人達がいるはずです。
- 壁に家具を固定しようとしている人。
- 壁に絵を飾ろうとしている人。
- 通気口をつくろうとしている人。
様々な目的をもった「穴」をあけたい人たちがいます。
そのとき、当社商品は、誰に買ってもらったら、最も価値を感じてくれるか?
ここまで考え尽くす必要があります。
これだけはありません。
まだまだあります。
ドリルは刃先を回転させて対象物を「こすって」います。
この「こする」という機能からも、ベネフィットが考えられます。
- ドリルの刃先に板を固定して“ぞうきん”を着ければ、研磨機になるのでは?
- ホイッパーをつければ、かくはん機になるのでは?
など、ドリルそのものだけでなく、機能からベネフィットを熟考することで、新しい用途が見つかったりもします。
今の商品をもっと売りたい!
と思ったら、無鉄砲に営業するよりも、提供できるであろうベネフィットを見つけ、お客様がリアルに満足してくれている映像が浮かぶまで、イメージをしてターゲット市場を絞りきることのほうが、がぜん営業効率は高まります。
前置きが長くなりましたが、前回の続きである「横展開を成功させる思考法」と今日の話は密接に関連しています。
「横展開を成功させる思考」は5つのステップを踏みながら、アイディアを練り上げ、企画に纏めていきます。
1.既存商品の特徴を抽出すること
2.ある特徴を抽象化すること
3.抽象化した特徴を無関係な世界に投げ込むこと
4.他要素との組み合わせや他分野での成功モデルの抽出
5.自社テーマへの具現化
前回は、この5つのステップのうち、1.既存商品の特徴を抽出すること…について「ノイズの必要性」を取り上げて、お話してきました。
前回のコラム → http://j-ioc.com/column/2439/
今回はその続きなので、2の「ある特徴を抽象化すること」から解説していきたいと思います。
ドリルの事例で見た通り「刃先を回転させる」という特徴から、「まわる」「摩擦」…などと抽象化をしていきます。
この段階で、「何をまどろっこしいことをしているのですか?! アタリマエの議論はやめて、早く具体的な答えを見つけましょうよ!」とスグに着地点を求めようとすると、視野狭窄の発想にしかなりません。
抽象化をする意味は、モノゴトの本質を追求し、他のモノゴトとの共通点を抽出することで、新しい切り口を発見することに繋がるのです。
3.抽象化した特徴を無関係な世界に投げ込むこと…は、まさにこのステージです。
「まわる」「摩擦」することによる、他の現象はないか…。
それが、「電動」によって省力化することで、便利になるもの、問題が解決されるものはないか…。
まったく無関係な世界に「抽象化された特徴」を投げ込んでみます。
最も、効果的なのが、自分が誠心誠意お客様のことを考え、貢献できる「惚れられる市場」から探索することです。
第177話 失敗する市場開拓と成功する市場開拓(コラムを読む)でも書いた通り、いくら良いアイディアが出ても、お客様に興味がなければ、売れるものも売れません。
主婦であれば、家事のなかで「回転作業」をしていることはないか…
日曜大工をするビジネスマンであれば、ドリル以外に回転動作が必要な工具はないか…
工場に勤務している人であれば、回転作業している生産工程はないか…
営業マンであれば、出入りしている会社や自社の中で、日常業務でなにか回転しているものはないか…
など、日常生活や、企業行動など、現実に動いている世界に思いを馳せてみると、意外にも「もしかしてコレを電動にしたら便利かも?!」と発想が湧き出てきます。
こうして大きな方向性で「イケるかも?」というジャストアイディアが生まれたら、次はビジネスになるか否かの、そのアイディア自体を研磨していきます。
4.他要素との組み合わせや他分野での成功モデルの抽出のステージです。
ドリルと似た原理で、サンダーという研磨機があります。
これは市場に出回っています。
また、学校の廊下をワックス掛けするポリッシャーという器具も市場に出回っています。
ドリルと似た原理で、他に成功しているモデルはあるのか?
そして価格とお客様が得ているベネフィットのバランスは、適切なのだろうか?
という視点で市場を眺めていくと、自社の取り組むべきテーマというのもが見えてきます。
5.自社テーマへの具現化 のステージです。
私も、このコラムを書いている最中、ドリル屋さんのクライアントさんが出来たつもりで書いていますが…
ありました、面白そうなテーマが(笑)
クルマのワックス掛けや床掃除用に家庭用ポリッシャーは、世の中に出回っているのですが…
なぜか、多くの人が苦痛に感じているのに、商品レベルで出回っていないものがあります。
少なくても、本コラムを書いている最中、GoogleやYahoo!などでかなり検索しましたが、ヒットしません。
これを読んでいる「家庭用ポリッシャーを製造しているメーカーさん」がいたら、絶対に発売した方がいいです。
何かというと、
フローリングのワックスを落とす「剥離機」です。
家庭用ポリッシャーで代替できそうなことはわかりますが、ピッタリ適合するかどうか分かりません。また、どのような剥離剤を使えばよいかも分かりません。
これが一発で理解できる商品だったら、かなりの需要があります。
専門業者もほとんどおらず、専用機もなく、困っている人がネット上でも「どうやってます?」と書き込みをしている…。
これは、間違いなくビジネスチャンスです。
今あるポリッシャーで、どのような研磨部(ブラシ)をつければキレイ且つカンタンに剥離できるのか?を研究して、パッケージ販売すれば、多くの生活者は気づくはずです。
「あっウチのフローリングも汚い…やってみよう!」と。
業者だと10万円近い価格をチャージされそうだし、フローリングの張替といったら100万円近いお金が掛かります。
それが1万円そこらで問題解決できたら…需要はかなり期待できます。
(ちなみに、家庭用ポリッシャーは5千円程度です)
問題の深刻さや解決されることの喜びと、それに掛かるコストを比較したときに割安だと市場が判断したら、営業力が多少弱くても売上は容易く上がっていきます。
つまり横展開は極めて高い確率で成功していきます。
話がかなり各論になってしまいましたが、このように新たな用途を開発して、横展開を成功させるには、5つのステップを意識して思考することで成功確率の高い企画が練り上がります。
御社では、思いつきレベルの事業企画ではなく、面倒な思考手順を踏んだとしても、成功確率の高い事業計画を練り上げるステップを意識して進めていますでしょうか?