とことん「本質追求」コラム第172話 売れない原因は、顧客の先入観?

 

「新商品が思うように売れないので、売り方を変えようと思うのですが、この案……どう思いますか?」

 

以前プロジェクトをご一緒させて頂いた企業さんから久しぶりにご相談がメールで舞い込んできました。

 

現在の取り組み、そして新しい売り方のアイディアが克明に綴られていましたが、即座に「それでは売れない…」というロジックが浮き彫りに…。

 

無駄骨を折っては、時間がもったいないので「今のアプローチ法では売れない理由」をハッキリとお伝えし、正攻法の代替案もお送りしたところ、即座に返信が帰ってきました。

 

「やはり、そうですか…。私も何となく上手くいかない気がしていたんです…」と。

 

誰しも直感というのは、非常に優れているものです。

ただ、その論拠がわからないと、もしかしたら当るかも…とその直感を無視して、泥沼に足を踏み込んでしまうケースも多々あります。

 

やはりイヤな予感がしたときは、その論拠を探求することも必要です。

 

と言うのも、今回のケースでは、予算規模がさほど取れないプロジェクトが、最も避けなくてはならない営業戦略でした。

 

商品の特徴が際立っており、競合商品も皆無。
売り手主体からみると、いかにも売れそうな商品です。

 

ところが、現実は思うように売れなかったようです。

そこで、過去の実施して来た販売手法を分析して、売れない理由を浮き彫りすると、売れないのは顧客側の先入観である…という原因が浮き彫りになっていました。

 

なのに、それはお客様がよく我が社の商品を理解していないからだ…と現実を解釈。

これまでの販売方法の延長線上でさらに資本を投入して強行突破路線に打ってでようとしていたのです。

 

顧客の先入観は、おいそれと変わるものではありません。

先入観を払拭し新しい価値観を上書きするには、2つの条件が必要なのです。

 

一つ目は、ショッキングな情報をセットにして、価値観の上書きを行える場合です

大塚製薬がポカリスエットを売り出したときの顧客側の常識はスポーツ中に水分を補給するのはナンセンス…という常識が蔓延っていました。

これをいくら大企業だからと言って、「水分補給は必要なのです」と言っても買い手の心は動きません。

スポーツ中に水分をとってはいけない…という先入観を覆すには、+αの情報では効き目が弱すぎるのです。

 

ところが、ここに医者が登場してきて、「スポーツ中に水分補給をしないと脱水症状になる」などの事実を謳うと、急にいままで抱いていた常識が不安になります。

さらに「病中に水分補給する必要性」や「脱水症状による危険性や事故例」などのショッキングな情報がメディアを通じて発信されていけば、過去の常識がリセットされ、新しい常識が上書きされていきます。

 

権威を動かし、メディアの力を利用する。

この条件が整えば、市場の価値観は塗り変わり、ゼロから大きな市場を作れる前提がつくれます。

 

もう一つは、よくよく考えてみれば…という軽い常識が覆されるときです。

 

かれこれ10年以上前になるかも知れませんが、日本橋にある「紀ノ重(きのしげ)」という居酒屋さんが見事にこれを行っていたのを記憶しています。

 

うる覚えですが、たしかメニューブックにこんな文書が綴られていました。

「市場から魚を買うとどうしてもお客様の口に入るが翌々日になってしまう…どうしたら港町の食堂で食べられるような美味しい魚が出せるだろうか…その答えが漁師さんとの直接契約だったのです」と。

 

そして、「今朝穫れ鮮魚」という新しい言葉を生み出し、他店の魚よりも鮮度が良いから美味い!というイメージをつくり出していました。

 

これは秀逸なアプローチだ!と深く感銘を受けたのを思い出します。

 

このように、よくよく考えてみると今までの常識は違うよな…と簡単にイメージできるものであれば、ちょっとした工夫だけで過去の常識をリセットして、新しい常識を上書きできます。

 

過去の常識はナンセンスで、新しい常識の方が正しいかも…

 そう認識され、これまでの先入観や常識がリセットし、新しい価値観に書き替わった時に、市場はようやく反応してくれます。

 「その商品(サービス)、面白いかも!」と。

 

しかし、この常識が覆せないまま商品やサービスを売っても売れるハズがありません。

 

お客様が、スポーツ中に水分を取るのはダメだ!と思っているのに、スポーツ飲料を売る事はできません。

 

お客様が、市場で買った魚は鮮度がイイ!と思っているのに、今朝穫れた魚が美味い! と謳っても優位性(鮮度の)を認識させることは出来ません。

 

商品を売る前に、まずは先入観を変えなければ、売れるものも売れないのです。

 

もし、ちょっとした説明で先入観を覆せるなら、その対策を講じるべきです。

 

しかし、予算規模がさほど取れないプロジェクトなのに、大規模な投資をしないと世の中の常識は覆せない…と思ったら、やめておいた方が無難です。

 

それよりも、お客様が認識をしている先入観の延長線上で商売をする方が、がぜん立ち上がりが早く売上に直結します。

 

使用用途を変えたり…。

ターゲットを変えて、先入観のない市場を攻めたり…。

と、切り口を変えて営業戦略を組み立て直した方が、少ない資金と労力で新規開拓を推し進めることができるからです。

 

御社では、顧客の先入観を意識した営業戦略を組み立てていますか?