「この事業は、儲ると思ったのですが……どうすれば上手くいきますかね?」
先日、せっかくご相談を頂いた案件だったのですが、残念ながらお受けするのを辞退させて頂きました。
扱っている商品の難しさと言うより「情熱」が湧いてこなかったのです。
難しい仕事に取り組むときには「情熱」が湧かなければ、十中八九結果がでないことは、これまで経験から学んでいます。
私は、営業マン出身です。
同僚や先輩・後輩だけでなく、他業界の営業マンさらには、以前やっていた営業マン育成の研修講師として沢山の営業マンと接してきました。
(現在は、クライアントさんの戦略方針が決まったところにしか教育研修は実施していません)
売れる人、売れない人の差は「外見の差」「情報量の差」「メンタルの差」など様々な要素がありますが、もっとも売上に影響を与えるのは「情熱の差」であることを知っています。
トップセールスの共通点は、自社商品によって顧客が喜ぶことに誇りを持っています。
商品やサービスが顧客に貢献できることに自信をもっており、新しく顧客になりうる「見込客」や「非顧客」が、当社商品を選ばないのは不幸である…とさえ思っているトップセールスマンも数多く存在します。
逆に…
売れない人は、まったくの正反対。自社商品に自信がなく、どう価値を与えられるのか腑に落とせていません。
これでは、売れるものも、売れるハズがありません。
この現実を真摯に受け止めると、ひとつの重要な気づきが得られます。
「何を売るのか」と事業を選択しているうちは、持続的に会社に利益貢献するような商品をつくりあげる事ができないという事実です。
何か儲る商品はないのか…という視点が強くなればなるほど、顧客への貢献意識が希薄になります。
高度成長期ならいざ知らず、社員も、儲るから売る…という理由づけしか与えられないと、セールスにおけるパンチ力の源である「情熱」が湧いてきません。
情熱なきところに、自社が存在価値は生まれません。
存在価値を見いだすことができなければ、必ず「迷い」が生じてきます。
「迷い」のあるところに、知恵も力も集中しません。
エネルギーは凝縮すれば凝縮するほど、パワーが湧いて出てくるものです。
困難な状況から脱却するには、迷いを断ち切り、エネルギーの凝縮に努め、パワー全開でコトに当たるほかないのです。
さらに、売り手の心理だけでなく、買い手の心理から見ても、「何を売るのか…」という視点で築き上げようとした事業は、成功からかけ離れていきます。
モノがない時代であれば、目の前にだされた商品に「購買意欲」をかき立てられえる事もありました。
しかし、モノが溢れ、情報も氾濫した今では、それだけでは購買意欲を喚起できません。
モノがない時代は、何を買うか……に購買心理がゆらゆらと動きます。
ところが、モノが溢れている時代は、「私にとって本当に必要なのか?」「必要なら、他に選択肢はないのか」と思考をぐるぐると回転させるのが、消費者心理というものです。
だからこそ、「この商品は、きっと御社(あなた)の為になる……」という自信、信念、情熱が必要になるのです。
そして、その心持ちを醸成するのに大切なことがあります。
「その気持ちは本当か?」ということです。
見せかけの自信、信念、情熱は、すぐに見抜かれます。
だからこそ、心の底からの「自信」「信念」「情熱」を育んでいくことが大切になるのです。
企業ですから、最初は「何を売るのか…」という出発点で考える事は自然な発想です。
でも、そこからもう一段階昇華させて「何でこの商品を売るのか…」という想いを注入させなくては、自信、信念、情熱は育まれません。
「私はこういった経験をしてきた。だから世の中にはこんな商品があった方がいい!」と言った類いの「想い」が、必要になるのです。
これを言語化したものが、ビジョンになります。
強い事業を育てようと思ったら、情熱が湧き出るようなビジョンを打ち出すことが重要です。
ビジョンはお客様の心を惹き付け、社員の心を鼓舞します。
冒頭にお話した企業の方にも、このお話をさせてもらったのですが、「そんな事から始めるのですか?今は時間がないんです。手っ取り早く売れる方法を考えてほしい」とおっしゃったので、これはムリだろう……と判断しました。
ビジョンなきところに事業を組み立てていけば、売れれば売れる程、顧客は期待を裏切られ、社員の心は荒んでいきます。
逆に、社会がより良くなるようなビジョンを掲げた事業であれば、買った顧客は満たされ、販売に携わる社員は、仕事そのものが生き甲斐になります。
その環境づくりに精を出すのが、社長の仕事であり、それをお手伝いするのが私の仕事だと信じています。
御社は、社会がより良くなるビジョンを打ち出し、社員が情熱をもって商品を販売する体制づくりに重きをおいていますでしょうか?