
「仰っていることは分かりますが、我々のような中小企業でマネジャーに専念するのは不可能ですよ…」
拙著「営業を設計する技術」に事例紹介させて頂いたK社長よりご依頼をいただき、先週、経営勉強会にて2時間のセミナー講師を担当させていただきました。
セミナーでは、セールスフォースやeセールスマネジャーなどの営業支援システム(SFA)の導入が成果につながらない理由についてお話ししたところ、終了後の懇親会では多くのご質問を頂戴し、活発な意見交換の場となりました。
多くの企業が「営業の管理体制」について課題を抱えているため、今回はその内容を改めて皆様にも共有させていただきたいと思います。
まず誤解のないようにお伝えしておきたいのは、「SFA(営業支援システム)」は、マネジメント体制がしっかり整っていれば、非常に効果的に活用できるツールであるということです。
しかし、感覚的には9割以上の中小企業では、マネジメント体制を整える前にSFAを導入してしまっています。
その結果、営業マンに過度な負担を強いるだけで、活用されずに終わってしまうケースが後を絶ちません。
そもそもSFAとは、マネジャーが“マネジメントするための道具”であり、プレイヤーの行動を“見える化”するための仕組みに過ぎません。
つまり、SFAが効果を発揮するためには、それを活用して「何を見るか」「どう判断するか」「どのように支援するか」というマネジャーの視点と役割が不可欠なのです。
初回接触から契約締結までの商談進捗(しんちょく)をフェーズごとに分解し、商談準備 →結果報告 →次なる対策を商談単位でマネジメントできて、初めてSFAを有効活用できるようになります。
SFAを使いこなすためには、感覚的な状況把握ではなく、論理的・体系的な状況整理を行い、それに対する「助言体制」を確立しなければなりません。
SFAを生かすも殺すも、マネジャーによる「関与の質量」によって大きく左右されます。
にもかかわらず、多くの中小企業では、マネジャーが自ら営業数字を追っており、部下の案件を“伴走”どころか“見守る”ことすらできていない状態に陥っています。
冒頭にお話しした通り、「われわれのような中小企業でマネジャーに専念するのは不可能だ」とおっしゃる経営者の方は多くいらっしゃいます。
現実のリソースが制約されていることは理解しています。
また、売れる営業マンを専業マネジャーにすることは売上低下をもたらすということで二の足を踏む気持ちも理解できます。
しかし、これまでの経験上、売れる営業マンが辞めて業績が長期低迷した企業を、私は見たことがありません。
そもそも売れる営業マンをマネジャーにするという発想に注意が必要です。
「名選手、必ずしも名監督にあらず」という言葉は、決して球界だけのものではありません。
営業の世界でも、まったく同じです。
長嶋茂雄さんの名(迷?)発言に、「腰をクッと回して、パーン!と打つんだよ!」というものがありますが、この「クッ」とか「パーン」といった擬音語では、技術的にどうすればよいのかまったく分かりません。
営業も同じです。
「営業で商品説明したことないですわ。雑談して、提案書を置いて帰るだけ。それだけで売れるでしょ……」と、とある売れる営業マンは言います。
これは、長嶋さんの迷言と同様に“再現性に欠ける”アドバイスです。
専業マネジャーに求められる必須の能力は、3つあります。
• 受注から逆算して商談をフェーズ分解する能力
• 各フェーズを次に進めるために必要な「情報収集」や「合意形成」要素を洗い出す能力
• 商談単位で管理し、事前準備と商談後の対策を緻密に組み立ててアドバイスできる能力
これら3つの能力を備え、さらに言語化能力に長けた人材でなければ、専業マネジャーには向きません。
同業他社の成功事例にすがる人材も専業マネージャーには向きません。
厳しいことを言いますが、自社なりの基準をつくれない営業マネジャーには管理能力がないことは明白だからです。
自社なりの基準を策定し、客観的な分析を重視し、営業マン各自の能力に合わせて商談の組み立てを後方支援できる人材こそ、専業マネジャーに向いているのです。
言うなれば、元楽天イーグルスの監督・野村克也さんのような人材です。
野村監督は「キャッチャーは監督の代行者」と位置づけ、思考力と判断力の育成を重視し、徹底して育成したと言われています。
試合後にはビデオとスコアブックを見ながら徹底的な反省会を行い、古田敦也選手に対して「配球の意図は?」「あそこでなぜこのサインを出した?」と毎回問い詰めたそうです。
最初は戸惑っていた古田選手も、次第に「相手打者の癖」や「カウント別の傾向」を自ら学び、試合中に自分の頭で戦略を組み立てられるようになったと回想しています。
どれだけ優秀な営業マンでも、1日にこなせる商談数には限りがあります。
たとえば、1人のトップ営業が1日に5件の商談をこなせても、それは“5件分の売上機会”にすぎません。
一方、1人の優秀なマネジャーが、5人の営業マンを育成・指導し、それぞれが1日3件ずつ商談できるようになれば、1日あたり15件の売上機会が生まれます。
さらに、育った営業マンが自走し、将来的にマネジャーとなって同じように部下を育てていけば、営業組織は指数関数的に成長していきます。
急がば回れ、と言います。
御社も、思い切って専業のマネジャーを発掘・育成してみませんか?