とことん「本質追求」コラム第658話 業績を伸ばす顧客視点の獲得法 

「当社は商社経由で販売しています。どうやったら顧客を知ることが出来るでしょうか?」

先週、日刊工業新聞社で開催した「製品開発マーケティングの進め方」セミナーに参加された方からの質問に耳を疑いました。

同社は、とある先端テクノロジーの分野の部品製造においてはトップシェアの会社です。
知る人ぞ知る超優良企業です。

その中核部署である「技術開発部門」の方から、顧客を知るための具体的な方法を質問されたのです。

優良企業の頭脳にあたる人が、顧客の視点を獲得するために悩んでいたとは…衝撃を受けてしまいました。

まさかこんな初歩的なことで行き詰まっているとは夢にも思わなかったからです。
顧客を知らずして、顧客が欲しがる商品が開発できるはずがありません。

私の専門は営業分野ですが、顧客が欲しがっていない商品を販売させられている営業マンが多いことに危機感を覚え、サラリーマン時代に習得した「商品企画のたて方」までご指導の範囲を広げて今に至っています。

当時抱いていたこの懸念は、間違っていなかったと最近つくづく感じています。

「日本一メルセデス・ベンツを売る男」の著者の吉田満氏は、「ベンツは自動販売機でも売れる」と言いつつも、営業マンの役割を強調していました。

「顧客の趣味や嗜好を深く理解し、期待以上の提案を行うことが、営業マンの役目である」」と。

この姿勢が、ワンランク上の車種の販売や奥様へのプレゼント需要の喚起など「客単価の向上」に繋げていたエピソードが本書で紹介されていますが…

本コラムで本書にスポットライトを当てたい視点はただ1つ…

自動販売機でも売れる「ものづくりの姿勢」があってこそ、営業マンの役割が発揮できる—。ということです。


「営業」と「ものづくり(商品企画)」は、両輪です。

営業が優れていても、ものづくりに顧客視点が欠けていれば、営業マンは「嘘つき扱い」されてしまいます。それどころか、ネットが社会浸透した「評価社会」においては、企業そのものの評価が下がってしまい、持続的な成長の足枷になってしまい兼ねません。

また、当然ながら顧客視点に基づいた優れたものづくりができていても、営業が体たらくであれば、売上には繋がりません。

「営業」と「ものづくり」は、両輪の回転数があって初めて企業がまっすぐ成長路線へと突き進めるのです。

いま、関与させて頂いてるクライアント企業さんにおいては、経営者が陣頭指揮をとって、顧客との接点を強化しています。

業界内で追随を許さない競争優位性を持ち、市場シェアも圧倒的No.1の企業であるにも関わらず、手綱を一切緩めることなく「顧客の真の声」を聞く仕組みづくりをしています。

社長を筆頭に経営幹部や部門責任者と一丸となって取り組む姿勢を見ると、強者が強者であり続ける理由が理解できます。

経営の神様と言われたピーター・ドラッカー氏も「顧客と市場を知っているのはただ一人、顧客本人である。」 顧客に直接耳を傾け、観察することの重要性を強調しています,

氏は「企業の目的は顧客の創造である。」とも主張しています。
代表的な名言なので、ご存知の方も多いと思いますが、 売上の源泉は顧客以外にはないことを生涯を通じて言い続けました。

私が関与させて頂いている企業さんは、まさに「顧客の創造」を事業目的の中心軸に添えていらっしゃいます。

売上に困って外部の力を利用しているのではなく、より強い企業を目指して、さらなる飛躍を遂げようしている社長さんばかりです。

顧客視点を獲得するための手法や考え方については、ここ4週連続で切り口を変えながらお示ししてきました。

「第654話 ニーズを聞いたら、皮を剥け!」では、潜在ニーズの見つける重要性をー。
「第655話 潜在ニーズは「察する」ことで顕在化する」では、具体的な潜在ニーズの見つけ方をー。
「第656話 環境変化に強い社風をつくるには?」では、潜在ニーズを探るための思考法をー。
「第657話 情熱なきスキルは、ただの作業にすぎない」では、潜在ニーズを手繰り寄せる課題をー。

それぞれお伝えしてきました。

顧客視点を獲得する重要性は、誰もが頭では理解してます。
一方で「顧客視点を獲得するための仕組みづくり」を徹底している企業は、まだまだ少数派です。

ネット社会からAI社会への転換期において、顧客視点を獲得する仕組みづくりの重要性は、これまで以上に高まっています。

消費者が情報の洪水に溺れていた時代から、AIが顧客に最適解を提案する時代です。
これは、今後の企業が「AIに選別される時代」に突入することを示唆しています。

これは、夢物語ではありません。
また、遠い未来の話をしているのでもありません。
生成AIによる広告が一斉に始まる今年、来年以降にやってくる時代です。
すでにアメリカでは、その変化の波が起きています。

顧客視点を獲得していない企業は、AIに選ばれない企業になり、消費者の視界から消えてしまう可能性が高まっています。
つまり、AIが「この商品・サービスはユーザーに適していない」と判断すれば、検索結果やレコメンドリストにすら表示されなくなるのです。

顧客視点の獲得は、急務の課題です。
・商社や代理店と協力して、顧客へのヒアリングが観察の機会を得ること。
・営業ー技術が連携して、組織横断的に顧客情報を共有すること。
・顧客が気づいていないニーズを発掘し、高付加価値提案をつづけること

そのために…
経営者自らが顧客と向き合う姿勢を重視して、組織に「顧客志向」の文化を根付かせることが大切です。

顧客視点を持つことは、単なるマーケティング手法の話ではなく、企業が持続的な成長をつづけるための条件となるのです。

御社には、顧客を理解し続けるための仕組みは存在していますか?