とことん「本質追求」コラム第652話 マーケティングは販売テクニックでない

「コンセプトはお客様から評価されています。問題は認知度の向上です。どうすれば認知度は向上するでしょうか?」

クライアント企業の営業担当者からの質問です。
同社は新規事業が思うように立ち上がらず、苦戦気味の状態です。
経営陣は背水の陣を敷き、経営資源を集中させて打開策を講じています。

優秀な人的リソースが増えたため議論も活発化。
受注実績も少しずつ出始め、さらに受注を加速させたいと、現場は懸命に活動しています。

しかし、焦りが生じているのでしょうか?
売上が伸び悩む原因を「認知度」と捉えているようです。

もっと良いトスアップ(商談)が来れば、アタック(クロージング)できるのに……といった感覚でしょうか。

同社のトスアップの源泉は、「販売代理店」「WEB広告」「FAXDM」「紹介商談」です。
それなりに商談は掘り起こせていますが、クロージング率は高くありません。

商談の断り文句もほぼ同じで、「あったら良いけど、購入するまでには至らない」といったところです。

冷静に考える必要があるのは、認知を増やし商談を重ねても、「あったら良いけど、購入するには至らない」という状況は改善しないということです

つまり、商品が思うように売れない原因は認知度ではなく「あったら良いな」という認知を「喉から手が出るほど欲しい!」という認知に変える必要があるのです。

認知の量ではなく、認知の質を変える必要があるのです。

莫大な資金を投下すれば認知の量を増やすことはできます。
テレビ、新聞、ネットなどに大量の広告を出せば認知度は増えます。

ただし、「認知度=売上」という公式は成り立ちません。

「あったら良いな」という認知度を上げる広報活動をしても、無駄に広告費を垂れ流しにするだけです。

もちろん、競争環境がない経営環境なら「あったら良いな」という切り口でも売上につながります。

しかし、代替商品が豊富にある経営環境では、競合にない「見込み客が喉から手が出るほど欲しい切り口」を見つけ、その認知を高める努力をしなければ売上にはつながりません。

「喉から手が出るほど欲しい」と思わせる認知が売上増につながるのです。

このロジックが確立できてから、初めて「認知の量」を増やすのです。
すると、広告費を払うことに躊躇することがなくなります。
バンバン広告費を払えば、ガンガン売上が伸びていくからです!


「商品を売ろう!」「商品を売らなければ……」という気持ちが強くなると、人はマーケティングや営業力を強化しようと思いがちです。

しかし、今一度踏みとどまって考えてほしいのです。

売上は、お客様が「その商品が必要だ」と思った瞬間に発生するのです。

つまり、商品とお客様の関係性をつくっていくこと。
強固な関係をつくり、無くてはならない存在に昇華させていくことが、売上の増加には不可欠な課題なのです。

1996年、経営危機に陥っていたAppleに代表権を取り返して返り咲いたスティーブ・ジョブズは、マーケティングという単語を嫌っていたといいます。

なぜ、マーケティングという言葉を嫌ったのか?

Appleの元広報宣伝副社長アリソン・ジョンソンの証言によると、マーケティングという言葉には「誰かにものを売らなければならない」という意味合いが強い。

マーケティング担当者の本来の役割は「消費者に製品の価値を伝えること」。

価値を最大限にアピールする役割を見失うと、無理やり売り込もうとしてしまう。
そんな姿勢であるべきではない!
これが、ジョブズ氏がマーケティングという言葉を嫌っていた理由だそうです。

では、あるべき姿とは何か?

それは、その製品が人間にどう関わるか。
つまり「製品と人間の関係性」が最も重要だと考えていたのです。

ジョブズ氏は、新製品の発売時に自らが表舞台に立って、その製品の素晴らしさや感動を消費者に伝えるためのコミュニケーション力に最大限の力を入れていました。

iPhoneを世に生み出したときのプレゼンを聞けば、それがよく分かります。
なぜ、iPhoneが世に生まれたのか?
iPhoneを手に入れる前のユーザーは、どんな不便や痛点を感じていたのか?
そこだけを力説しているのです。

商品を売り込むのではありません。

商品の存在意義と価値を伝え、不便や不満を抱えているユーザーの救世主になるのです。

藤冨が23歳の時に修行していた「日本オリエンテーション」は、当時「マーケティングって市場調査のことですよね?」という誤解が蔓延していた中で、「価値を創造するのがマーケティングです!」とはっきりと明言していました。

WEBマーケティングなど、チャラっぽい単語が蔓延してしまったために、マーケティング=販売テクニックだと多くの方が誤解しています。

大切な視点なので、もう一度言いますが、マーケティングの仕事は「価値の創造と伝達」です。

売上に伸び悩む事業の9割以上は、この視点が欠落しています。

現状に不満や不便を感じている人々の救世主となるような「価値」を創造し、それを的確に伝えることで富が得られる仕組みの全体像を作り出すことがマーケティングの役割なのです。

顧客が得られる富(ベネフィット)と企業が得る富(売上)の交換作業を作り出すことがマーケティングなのです。

この本質を突き詰めれば、必ず売上は増加します。
購入することで得られる富を顧客が理解できれば、「選ばれる存在」になるからです。

御社は、マーケティングの本質を突き詰めた事業活動を行っていますでしょうか?

▼ジョブズ氏によるiPhone新製品発表会▼