とことん「本質追求」コラム第635話 事業計画の解像度を高める2つの視点

「まだ1台も売れていないのですが…ペルソナマーケティングで組み立てたビジネスプランを見ていただけますか?」

現在、非公開で実施している「商品の魅せ方、売り方開発の実践塾」において、新規事業の立ち上げに苦心をしている参加企業の方からビジネスプランを見せてもらいました。

さすが、中堅企業の役員の方が作成されただけあって、非常に見栄えの良い事業計画です。

普及学に基づく、ターゲット選定。
そして、ターゲットをペルソナ化して、マーケティングプランを組み上げている構想は、まったく隙がありません。

事業計画だけを拝見すると、完璧なように見えますが、実態は売上ゼロ。

表面的には立派に見えるのに、なぜ?
と感じて、市場(想定顧客)と製品の特性・相性をディスカッションしたところ、肝心のペルソナ設定自体がズレていることが判明したのです。

同社幹部も頭を抱えていましたが、早く気づいて修正に着手できたことが、むしろ幸いでした。
販促や広告費用をほとんどかけていなかったので、傷口は浅く、手戻りコストも軽微な状態。

「仏作って、魂入れず」という状態に陥ってはいましたが、逆に言うと「仏」(モノ)はしっかりとした製品レベルにあるので、あとは「魂」を入れるだけです。

ペルソナマーケティングは、効果的な商品企画や販売企画ができる一方で、作り手満足で終わっているケースが散見されます。

「魂」を入れ込むには、やはり実際の顧客になり得る人たちの観察やヒアリングが必要不可欠です。

顧客になり得る人たちが、どのような状態にいるのか?
そして、その状態は、どのような問題を示唆しているのか?

顧客の置かれた状況に、没入することで、彼らが求める製品像や売り方が見えてくるからです。

ペルソナマーケティングを実施しているのに、うまくいっていないケースは大きく分けて2つしかありません。

一つ目は、想定顧客の像が「空想のまま」で終わっている場合。
二つ目は、想定顧客が個別対応的で、市場として形成されない場合
のどちらかです。

空想の想定顧客(ペルソナ)に、いくら属性を加えたところで、リアルにはなりません。

当商品を購入するペルソナは、平日は朝9時に起きて、電車で通勤し、終業後はスポーツジムに通い近所の定食屋で食事を済ませて帰っている…など、非常に細かいペルソナを設定している企画書も見たことがあります。

顧客像を詳しく描きだす目的は、顧客の感情に没入するためです。
しかし、感情に没入することなく、「詳しく顧客像を書くこと」が、目的になってしまっているケースが多いのが実情です。

目的を見失った手段が、成果を生み出すことはありません。
この「手段の目的化」を避ける有効な手段は、逆算思考です。

藤冨がコンサルティングの際に使っている逆算思考によるビジネスプランの設計をご覧ください。
受注から逆算して、どのプロセスで、何をすべきかのアウトラインがお分かりになると思います。

もっとも大切な要素は、顧客ファクト。

顧客ファクトは、テストセールスや、実際の商談からヒアリングで浮き彫りになります。
また、現場視察や保守点検などのメンテナンス作業からもファクトを掴みとることができます。
展示会の主催者が顧客像になり得る場合は、絶好の市場調査のチャンスにもなります。
他にも、アンケート調査などで顧客ファクトを掴む方法はありますが、大事なことは、どこまで情報を深掘りできるか?に関わってきます。

実在する顧客の置かれた状態から、問題を深掘りし、他者にはできない「最適な改善策」を提示できれば、売れないはずがありません。

次に、二つ目の「想定顧客が個別対応的で、市場として形成されないケース」をみていきたいと思います。

売れる!と確信した際に、その商品が一部の顧客に限定せず、他の多くの顧客には関心を持たれているか否かを確認することが必要です。

個別の顧客のニーズや課題に対しては適切に対応しているものの、市場全体としてのニーズを捉えることができていないと売上は伸びていきません。

市場の広がりを見誤ると、いくらペルソナを詳細に設定しても、無駄骨に終わってしまいます。

逆に、顧客ファクトが市場として形成されているか否かを判断することができれば、目標とする売上規模が達成できるか否かがわかります。

目標売上は「想定顧客の数×目標シェア×顧客単価」という公式で成り立っています。(厳密には、顧客単価はLTV(顧客生涯価値)で計算しますが、ここではわかりやすく「顧客単価」を代用しています)

経営計画なり事業計画なりで、この公式に基づいて売上目標を設定すれば、明確なる行動目標が組織内で共有できるようになります。

シェア何%目標の設定は、具体的な営業目標になり、見込客の集客目標につながるからです

反対に、経営計画や事業計画をつくっても、売上目標と努力目標が密接に連携していないと、絵に描いた餅で終わってしまいます。

本来のペルソナマーケティングは、最終的な売上目標と密接に連動させることが重要なポイントなのです。

つまり、ペルソナマーケティングを効果的に活用するためには、単に細かい顧客像を設定するだけでなく、その顧客が実際に存在し、さらにその顧客層が市場として十分な規模を持つかどうかを確認することが必要不可欠なのです。

リアルな顧客像を描き、彼らの感情に没入し、彼らの立場にたって世の中を見渡せば、売れる商品のあり方や成功する販売手法の解像度があがります。

御社の事業計画は、リアルな顧客像の上に組み立てられていますでしょうか? 
そして実行可能な努力目標に連動してしますでしょうか?