とことん「本質追求」コラム第633話 DXの9割が失敗する理由とは

『DXで成功している企業があったらご紹介頂けないでしょうか?同会として成功事例を収集していますので…』

先週、570社が集まった総合展示会の審査員をした際、とある団体の部長さんからご相談を受けました。
心当たりのある1社以外、残念ながらDX(デジタルトランスフォーメーション)で成功している中小企業を知らなかったので、1社だけご案内しましたが…

いかがでしょうか?
皆さんの会社では成功していますでしょうか?
または、成功している中小企業をご存知でしょうか?

藤冨の体感的には、良くても9割。
厳しく捉えると、9割9部が失敗していると感じています。

では、ごくごく少数派の成功している中小企業と、失敗している大多数の「違い」は何でしょうか?

ズバリ一言でお伝えするならば、「手段の目的化」がDX失敗の最大の原因です。

経済産業省によると、DXとは、デジタル技術やツールを導入すること自体ではなく、データやデジタル技術を使って顧客目線で新たな価値を創出していくことと定義されています。

この説明を聞くと、DXという単語自体に「手段の目的化」する悪因が含まれているように感じます。

そもそも論として、顧客目線で新たな価値を創造する際に、必ずしもデジタルに頼る必要はありません。

顧客価値を創造し続ける企業が、その効率性を高めるためにデジタルを導入するのであれば、意味がわかります。

しかし、顧客価値を創造するためのロジックが確立できていない企業が、デジタル化から着手しようとすると、迷宮入りするリスクが高まってしまいます。

先日、とある大企業の上層部と一杯飲みながらお話した際、こんな話を聞かせてもらいました。
「恥ずかしながら我が社も(DXに)思いっきり失敗していますよ。システム部から分析資料が上がってきた際、私が『これで何を判断するんですか?』と聞いたら、『それをこれから議論するんです!』と恥ずかしげもなく発言したんです。呆れ返って何も言えませんでした…」と。

私も愕然としました。まさか同社もそんな初歩的な失敗をするとは…と。

成功するプロジェクトというのは、明確なゴール設定がされている場合にのみ機能するものです。
ここで言うゴールとは、最終的に達成したい成果や価値を明確に描いたものでなければなりません。

例えば、「潜在ニーズに対応した高い利益率の新商品を開発する」とか「新商品の横展開営業を迅速に遂行する」といった具体的な目的がゴールのイメージです。

  • 潜在ニーズをいかに創出するか
  • 高い利益率の新商品を開発するには、どのような要素を注入すべきか
  • そもそも高い利益率を維持するための営業マネジメント体制はどう作り上げるべきか
  • 横展開営業を加速させるキーファクターは何か
  • 横展開営業を迅速に遂行し続けるための営業マネジメント体制はどう構築するのか

具体的なようなゴールを達成するためには、どのようなデータが必要か。
そのデータをどのように判断していくべきか。
ゴールから逆算したプロセス設計が、成功のカギを握るのです。

ある中小企業の事例を挙げると、その会社はDXの旗振りのもと「顧客管理システム」を導入しました。
しかし、当初の目的が曖昧で、結局、システムはただのデータ入力作業を増やすだけの負担になり、実際には業務効率の向上どころか現場の不満が爆発してしまったそうです。
結局、そのプロジェクトは凍結され、費用だけが無駄に消えたという結果に終わりました。

まさに、「手段の目的化」に陥ってしまった典型的な失敗のパターンです。

一方で、成功している企業は、どうでしょう?
言わずもがな、成功している企業は、顧客目線での徹底した価値創造をシステム設計の基準にしています。

例えば、冒頭にあげたDXに成功している企業は、失注理由をデータベース化することで開発テーマを探るカルチャーを浸透させています。

同社では、お客様が当社製品を選ばなかった理由をデータベース(DB)化しています。
その失注理由DBを、「見込客」発掘のツールとして使っています。

「先日は当社製品をご検討頂きありがとうございました。その際、ご指摘を受けた機能を新たに追加したので、ぜひ再度ご覧頂けないでしょうか?」とコンタクトすれば、新規顧客の商談を発掘するよりも、はるかに安い費用で商談を掘り起こすことができます。

誤解のないように付け加えると、その成功企業では、失注原因に対応した技術開発をすぐに着手することはしません。

  • 失注理由になった要素は、他の企業でも共通の課題となるだろうか
  • 対応機能や性能を満たした場合、どのくらいの売上が期待できるか
  • 想定される市場規模は、最高どの程度あり、何%のシェアがとれるだろうか

など、失注理由から市場投入の検討まで、すべてシステムで抽出できるように設計されています。

DXの成功は、ゴールから逆算することが「要」となります。

さらに言えば、開発、生産、営業、広報、マーケティングなどの部門間の壁を跨いだ「顧客対応意識」がなければ、データを生かし切ることはできません。
そのためには、現場とトップマネジメント間の強固な連携が欠かせません。

成功している企業は、システム導入をあくまでも手段と捉え、組織文化や業務フローの変革を重視しています。

DXは、顧客目線で新たな価値を創出していくことと経産省は定義していました。

経営の神様であるP・F・ドラッカーは、企業の目的は「顧客の創造である」と断しています。
これは、顧客目線で新たな価値を創出することと同義語です。

顧客を創造するためには、どのような情報が必要か?
その明確な答えがなくては、DXは成功しません。
ゴールが明確になっていないからです。

御社は、顧客を創造するための必要情報を明確に定義できていますでしょうか?