『売り上げですか? 4倍じゃなく、5倍になりました』
仲間のコンサルタントが、主宰する会合にゲストとして参加したときのことです。
ご参加された経営者一人一人を紹介をして頂いているときに、売上を急伸させている社長の番になったときのことでした。
売上1億から……えーっと4倍まで伸ばしたんだっけ?と主催者が確認した際、その社長はいえいえもう5億だから5倍ですよ!とサラッと言い放ちました。
社長は、マスオさんとして奥さんの実家が営む酒屋さんの経営を引き継でいるとのこと。
人間関係的には、決してやり易い状況でもないのに、すごいな…と、私の興味は釘付けになってしまいました。
いったい何を仕掛けたのか…
初対面にも関わらず、ズケズケとその秘訣を聞き出そうと食い入るように突っ込んでいったのですが…尋常ではない徹底ぶりに驚きました。
社長がやったことは、個人への販売だけでなく、近隣のホテル、ゴルフ場、飲食店など、法人顧客の獲得まで営業範囲を広げたこと。
概論は分かり易いです。
でも、いったいどうやって???
皆さんも私と同じように次なる疑問が、湧いてくるはずです。
と言うのも、扱っている商品は「お酒」です。
品揃えによる「差別化」は出来ても、法人開拓に優位性を発揮する差別化はそう簡単でないことは、容易に想像がつきます。
すると、社長はトツトツと今まで実践してきたことを、惜しげも無く話してくれたのです。
「酒屋はカギを預かりますでしょ。まだお店の人が来ていないときに、私たちはお酒を納品しているんです。ウチだけじゃない、おしぼり屋さんとか色んな業者が出入りしているです。で、みんなポンポンとその辺に置くように納品していく。お店は散らかりっぱなしですよ。そこで、ウチは社員に徹底させたんです。ウチの商品だけでなく、他の業者が納品したものキチンと整理整頓して納品するように!」と。
すごい。でもそれでは誰がやったのかお店の人はわからないのでは?と思っていると…
「取引先に飲みにいきますでしょ。そのとき自分の靴だけじゃなく、他のお客さんの靴もキレイに整理整頓するんです。すると、お店の人は気づいてくれるんです。“あっ、御社だったんですね!」と。
「やってきたことは、この徹底ですよ」とサラッと言っていましたが、業績の良い会社は、やっぱり徹底力が違います。
非凡とは、凡庸の積み重ねでしかありません。
小さな徹底が、大きな差を生み出すのです。
『表面的な行動』ではなく、『本質的な事業活動の一環である』ことを全社員が理解しているからこその結果なのです。
セブン&アイホールディングスのお荷物と言われていた「デニーズ」を今期15億円もの営業利益でグループに貢献するまでに育てた大久保恒夫社長も、非凡な結果を凡庸の積み重ねで導いてきました。
1にお客様へのあいさつ
2においしい料理の提供
3にきれいなお店
これ以外に、具体的な指示はださなかったと言います。
お店としては「当然のこと」を言われているだけです。
でも、余りにもアタリマエ過ぎるし、具体的な指示もないから現場責任者は、「挨拶、おいしい料理、キレイなお店」のあるべき姿を突き詰めて考えざるを得ません。
この追求力が、明快な「行動指針」を生み出したのです。
そして、単純であるがゆえにその行動指針は、「徹底力」に繋がり、非凡な結果へと導いてくれたのでしょう。
私は、着物屋、食品、食器、住宅関連など、身近に感じられる業界から、普通は触れることのない、無線機器メーカーや半導体評価装置メーカーまで、本当に様々な業界のお手伝いをさせてもらえる機会に恵まれています。
そこで、勝てる営業戦略を社長さんや社員の皆さんと一緒に練り上げていますが、いくら勝てる戦略を企てても、本質を理解した社員の皆さんによる徹底力がなければ、勝ち戦には繋がりません。
幸いにして、優れたクライアントさんばかりに囲まれているので、その心配も少ないのですが……
それでも、今一度「徹底力」にこだわる必要性があると、改めて感じています。
以前、セブンイレブン・ジャパンの創業者である鈴木敏文氏が、「毎週、1000名以上の店舗経営指導員を東京本社に集めて会議をしているが、毎回同じ事を、別な切り口で何度も、何度も話しているだけだ。年間数十億円もかけて…」と何かの記事か本で書かれていたことを思い出しました。
何を信じて、何に集中するのか……
「結果を出すプロセス」には通底するロジックが必ずあるものなのです。