「今日のコラムは難しすぎました。もう少し分かりやすく書いて欲しいです」
先日のコラムは、理解が難しかったとの声を複数の方からご指摘をいただきました。
野中郁次郎先生の見解やソシュールの言語の恣意性の関連性を正しくお伝えしたい一心で、引用を多用しすぎたせいでしょうか…噛み砕いた文章にできなかったと反省しています。
なので、今日は前回のコラムを咀嚼し、日々の仕事で実践できるレベルまで落とし込みたいと思います。
前回のコラムを一言で言うと、机上の空論の計画づくりに時間を割くより、現場・行動重視で仕事に取り組むべき…ということです。
野中先生は、時間をかけて完璧に仕上げた計画であっても、前提条件が変化する
と、計画は使い物にならなくなることがあると指摘しています。
まさにその通りです。
計画は大事ですが、現場と連動していないと、前提条件を見誤ったり変化に対応できなくなります。
野中郁次郎先生が「考える前に感じろ!」と言っている真意は、まさに現場のリアルタイムな状況を感じ取り、それに基づいて計画を企て、即座に行動することの重要性を強調しています。
これは、理論や計画だけに頼らず、現実の状況に即した対応力の重要性を説いているに他ありません。
そして、現場で感じたことを、組織にフィードバックし、開発、生産、営業などの部門を超えたメンバーが、現場を同じ温度感とイメージで共有できれば、的確な顧客対応が実現でき、売上・利益へと繋がっていくわけです。
だからソシュールが提言した「言語の恣意性」を引用し、ある言葉を共有する際、メンバー全員が同じイメージで捉える重要性をお伝えしたかったわけです。
例えば「飲料メーカーの工場では、メンテナンス作業に課題を抱えている」と言葉を組織全体で共有したとしましょう。
ある人は、業務終了後にタンクの掃除の手間が掛かっているのでは?とイメージするかも知れません。
またある人は、業務中に漏れなどがないか、チェック作業に手間が掛かっているのでは…とイメージするかも知れません。
このイメージのズレは、よくよく観察すると極めて重大な問題を引き起こしていることに気づかされます。
商品企画、製品開発、マーケティング戦略の立案、営業活動への落とし込みなど、部門内・外の組織メンバー間にイメージのズレが発生していると、連携や協力が阻害されてしまいます。
ここは、非常に重要なポイントなので、実例を交えてお伝えしたいと思います。
先週、クライアント企業さんの新商品企画のアイデアを「想定見込客」前でプレゼンした時のことです。
数百万円するソフトウェアが、たったの十数万円で買えます。
機能は少し劣りますが、この価格破壊は価値があります!
と、熱弁を振るったのですが、想定見込客の反応はイマイチ。
「あったら良いけど、別に無くても構わないかな…」と、冷やな受け止め方をされたのです。
一般的には、商品企画し、製造してモノができてから発売する!というビジネスプロセスを踏むモノですが…この一連の流れは、「思い込みの計画」に過ぎません。
膨大な時間を費やし、材料を調達し、試行錯誤しながらモノづくりをしている間は、すべて「思い込みの計画」です。
「こんなモノがあったら売れるに違いない!」という”思い込み”は幻想に過ぎないのです。
幻想とは「現実にはないことをあるかのように心に思い描くこと」と定義されています。
そうなんです。お客様の実態を知らずに商品を企画し販売するのは、幻想に過ぎないのです。
上述のプロジェクトはまだ開発着手中で、仕様自体は煮詰まっていない段階です。
そのため、企画段階で軌道修正できたと捉えると、無駄な開発・営業コストを抑制できたことになります。
現場の実態を知らずに完成形を作っていたら、売れない商品を作り上げてしまい、仕様変更や追加機能の開発、営業の無駄足コストが膨らんでしまいます。
現場の事実情報を掌握すること。
つまり顧客ファクトを正確に捉えることは、「実態に即した売れる企画」につながるのです。
上述のプレゼンの場で、しらけきった空気を変えるべく、藤冨はいくつかの顧客ファクトを引き出す質問を投げかけました。
「その問題の発生頻度はどの程度ですか?」と、と聞くと、なんと9割もの問題が発生していたのです。
正直耳を疑いました。
同時に、好奇心がむくむくと芽生え始めました。
詳しく聞くと、お役所がらみの仕事なので旧態依然としており、仕事のプロセスを変えようとしないために問題が治らないとのことでした。
下請法に抵触しないのが、不思議なくらいの構造的問題でした。
想定見込客は、その置かれた環境が習慣になり、問題意識すらない状況でした。
諦め切っていたのです。
「それでも業務プロセスを整理すると、こんなソフトがあったら作業時間は激減できるかもしれませんね。さらに、いち早く問題点を役所に指摘し修正案が受け入れられれば、工期にゆとりができるから計画的な人材配置ができますよね」と伝えると…
想定見込客は「あっそれなら欲しいかも」と、商談が急展開しはじめたのです。
顧客ファクトを掴み、問題点を明らかにし、その解決ができれば、どれだけの顧客はメリットを享受できるのか?
そのメリットの強さが、価格との交換価値になるのです。
数百万円で売れているソフトの安価版は絶対に売れるはず!というのはあくまでも幻想だったのです。
そもそも、どれだけ安価でも、これまでの習慣を変えるのは面倒…という「変化への拒否」が起きるのは自然の摂理です。
安さで勝負をしても全く意味がないことを、発売前に気づけたのは同社にとって、とても価値あることでした。
我々は商品の企画時点で、このPoC(概念検証)と呼ばれる一手間を入れることを強く推奨しています。
PoCとは、平たく言うと「机上での企画が、実際に市場(顧客)に受け入れられるか否か…つまり売れるかどうか」を検証することです。
「こんな商品があったら買いたいですか?」と問いかけるのです。
ただ、この際に重要な注意点が1つあります。
それは、「こんな新商品があったらいいでしょ!」と売り手目線のアピールをしないことです。
あくまでも、「こんな新商品を考えています。なぜなら、お客様が置かれた状況にこんな問題があると仮定しているからです。私どもの認識に間違いありませんか?」と顧客の置かれた立場を聞くことに徹するのです。
プレゼンすることに重きを置くのではなく、現場の実態を掌握することに重きを置くのです。
感想や理想を聞くのではありません。
あくまでも事実情報、顧客ファクトを掌握するのです。
そして、そのような事実があるということは、こんな問題がありませんか? と顧客サイドの問題を推定する質問力をつけることが、めちゃくちゃ大事なのです。
このPoCを的確に実施することができれば、「作ったけど売れない」という悲劇を激減させることができます。
御社は、顧客ファクトの掌握を要視したPoCを商品開発や営業活動の前段階で実施していますか?