とことん「本質追求」コラム第611話 人は習慣と環境で育つ!

「営業社員の教育には限界があるという指摘は、なんとなく分かっていましたが、その理由を知り、腑に落ちました。しかし、仕組みで解決するとは、具体的にどのようにするのでしょうか?」

先週のコラム「営業の教育訓練は『拷問』になる?」を読んだ読者からの質問メールが届きました。

感想や質問のメールをいただくことは、大変励みになり、深堀りすべきテーマの発見にもつながります。
貴重なご意見やご質問を頂きましたこと、この場を持って改めて御礼を申し上げます。

さて、仕組みで解決する具体策をお伝えする前に、なぜ仕組みで解決することが優先すべきなのか…まずはその背景をお伝えしたいと思います。

以前、メルマガで紹介した世界の三大幸福論の一つ、ヒルティの「幸福論」では、「仕事」は人が幸福になるための土台作りにおいて非常に重要な位置を占めると明確に主張しました。

と、同時に「人間の本性は怠け者なので、仕事を通じて幸せを感じるためには「習慣の力」を利用する必要がある」とアドバイスをしています。

最初は苦痛であっても、やり続けるうちにやらなくては気持ち悪いと感じるようになれば、いつしか仕事を通じて周囲の人たちから感謝されるようになり、そこに幸福を感じるようになる。その繰り返しによって、人生はより良くなるとヒルティは断言したのです。

人間は、習慣と環境によって成長するのです。
教育訓練も習慣化しなければ、血肉になりません。

東大卒の友人は「社会に出て勉強をしない人が多すぎる。勉強し続けた人が社会では活躍している。いくら東大を出ても、途中で勉強をやめてしまったら、そこでその人の成長は止まる」と話をしていました。

文化庁の統計によると、「本をまったく読まない」人が47.3%、「1、2冊」が37.6%で、合わせて84.9%の人に、読書習慣がありません。
友人の嘆きが統計にも表れていました。

また、習慣化させるためには環境づくりが、カギを握ります。

読書に焦点を当てると、読書を習慣化するための環境が著しく悪化していることに気づかされます。
最大の影響は「スマートフォンの普及」です。
電車に乗っても、スマホが普及する前は新聞や本を読んでいる人をよく見かけましたが、今は希少生物くらいに見つけることが困難になりました。

環境が習慣を作り、習慣が成長の礎となる。
この真実を実現しようとすると、「個」の力だけでは貫き通すことが難しくなっているのです

そこで、必要になってくるのが「仕組み」です。

本題に戻りながら、解説してみたいと思います。

仕組みとは、ある目標を達成するための「構造やプロセス」のことです。
構造やプロセスが、形式化されれば、それは環境となります。
つまり、ゴールに到達するための環境を作ることが、仕組み化という概念になります。

営業のゴールとは何でしょうか?

売上?
利益?

その答えは、間違いではありません。

しかし、そこをゴールにすると、うまく行きません。
この理由を理解するには、KPI(重要業績評価指標)を重視する社会的風潮が高まっていることを考えれば良いでしょう。

売上・利益を稼ぐことを目標に掲げると、働き手の潜在的な反発が生まれやすくなります。
成熟した人間や社会は、私的成功よりも、公的成功を求められるからです。

したがって、KPIは、会社としての成功を手前の目標にするのではなく、個人の成長の結果、社会がより良くなる…という構造を作り出す必要があります。

社員が、会社が定めた仕組み・ルールによって、自己成長し、しかもその結果、顧客が喜び、会社も繁栄し、その恩恵を受けて自分たちの生活も豊になる…という構造を理解し、納得してもらえるような「環境」をつくることが、今の時代には求められているのです。

冒頭のご質問にお答えする意味でも、一例を持って具体例をお示ししたいと思います。

例えば、監視カメラを販売している会社があったとしましょう。

営業マンに対し「君のノルマは、月30台、1500万円の目標だ!」と、示しても、彼らは自らを奮い立たせて「よしやってやろう!」とはなりません。

30年以上前なら、そういう人材がうじゃうじゃいました。
そのため、ノルマを提示するだけで、営業マンの自助努力で、業績を上げることが出来ていたのです。

しかし、今やノルマの提示で、アドレナリンが放出される人材は、ほぼ壊滅状態です。
時代が変わったのです。

では、どのように業績を上げるために、彼らをモチベートするのか…
面倒に聞こえるかも知れませんが、経営陣や管理者側の「お膳立て」が必要です。

監視カメラを売るのではなく、監視カメラは、顧客にとって、どのような貢献ができるのか…を追求することをミッションに掲げるのです

例えば、ある営業マンは「監視カメラの『動体検知機能』と画像解析処理を組み合わせて害獣を検知し、農作物を守るための仕組みを提供する」という使命を見出すかもしれません。

別の営業マンも同じ機能を使って「マンションの玄関ドアのキーレス自動開閉システムに応用し、住民の快適性を追求すること」に自らの使命を燃やすかも知れません。

また、ある営業マンは「行列の人数をカウントし、待ち時間をネット上に公開することで、利用者のストレス緩和を追求するシステムを普及させること」に使命を燃やすかも知れません。

あるミッションを定めたら、次は、そのテーマで困っている人と、より効率的にたくさん出会うこと。
そして、現状に気づいてもらい、監視カメラによって問題が解決されることを自覚してもらうこと。

これが、KPIの起点になります。

次に、仕組みとしてKPIを整理してみましょう。

1. 対象客との発見数
2. 営業コンタクト数
3. 営業先の属性情報のリサーチ
4. 営業先のヒアリング情報
5. 課題提案とその反応
6. 失注した場合は、その理由

などなど、が考えられます。
上述のようなKPIを制度化・仕組み化し、環境として定着すれば業績は自然と向上していく様子がイメージできせんか?

売上の伸長率に疑問を感じていたら、まずは上述に習って習慣と環境に着眼してみてください。
きっと見直すポイントが見えてくるはずです。

御社は、人が育つ環境づくりに、どのような創意工夫をしていますか?