「ペルソナマーケティングは、ソフトウェアの開発に用いられていたのですね。どうりでウチの業界では使いにくいと思っていました」
先日、コンサルティング先の社長と一献傾けた際、先週のコラムが酒の肴となりました。
とても有意義だったので、共有したいと思います。
なぜソフトウェア開発で有効だったペルソナマーケティングが他の業界に広まったのか、
そしてなぜ業界によっては使えないと判断されるケースがあるのか。
これらの疑問に答えながら、ペルソナマーケティングの有効性について考察していきたいと思います。
ペルソナマーケティングは「特定の顧客セグメントを代表する理想的な顧客像や人物像(ペルソナ)を作り上げ、そのペルソナに基づいてマーケティング戦略を立案する手法。顧客のニーズや行動パターン、好みなどを詳細に分析し、それを基にして商品を企画・開発し、効果的なセールスアプローチを考案していくもの」です。
ソフトウェア開発者であるアラン・クーパー氏が、ユーザー中心の設計手法において、特定のユーザータイプやペルソナのニーズや要求を重視することで、顧客にとってわかりやすく・使いやすいソフトをつくるためのアプローチとして提唱したのが始まりだと言われています。
私自身も20代でITベンチャーに勤めていましたが、システム開発は使いやすさよりも、開発思想やシステムが達成する目的を重視しがちでした。
ユーザビリティーに欠け、読まないマニュアルを一生懸命に制作し、使い勝手の詰めの甘さは、ヘルプデスクセンターに丸投げするなど、「使いこなせないのは顧客のせい」だという認識に業界全体が包まれていることに、当時ひどく驚き、業界の未成熟さに強い違和感を覚えました。
その数年後…IT業界は、Appleがイノベーションを起こしユーザビリティ革命がおきました。
iPhoneは、製品に分厚いマニュアルをいれず、使い方を教えずとも直感的にユーザーが利用できる製品をつくりあげたのです。
マニュアル制作部門を不要にし、無駄な印刷費も排除し、極限までヘルプデスクセンターの負荷を「製品開発段階」から構想する全体最適思想は、業界の常識をバッサリと切り捨てるようなインパクトをもたらしました。
アラン・クーパー氏も著書「コンピュータは、むずかしすぎて使えない(翔泳社)」で、開発者がユーザに対して適切な質問をすることや、ユーザの意見やフィードバックを積極的に収集することの重要性を強調していますが、これはコンピューター業界に限ったことではなく、すべての商品・サービスに共通する重要なテーマだと言えます。
例えば、先週丸亀製麺が発表した「ドライブスルー併設店舗」は、ユーザー視点を重視した企画が随所に盛り込まれていました。
まず、ドライブスルー店舗であることを「大型のイラスト看板」で表現した点が挙げられます。
ドライブスルーくらい書けば理解できるだろう…という投げやりな売り手の姿勢を排除している点は、高く評価できます。
運転中は周囲が見えにくくなる人々もおり、瞬時に「ドライブスルーであること」を認識してもらうには、工夫が必要になる人も一定数存在するためです。
また、丸亀製麺はドライブスルーを利用するユーザーの潜在ニーズに応えるために、車のカップホルダーに収まる新商品「シェイクうどん」を開発しています。
丸亀製麺でのクリエイティブの実体はわかりませんが、イラスト看板といい、シェイクうどんといい、これはペルソナマーケティングを使いこなすと自然に生まれるアイデアです。
ペルソナマーケティングは、顧客視点から全てを逆算する非常に有効なマーケティング手法です。
しかし、上述の通り、業界や会社(人?)に、よっては「使えないと判断してしまうケース」もよく見聞きします。
なぜでしょうか?
冒頭で話した社長の場合、彼が認識していたペルソナマーケティングは、研修講師による研修のためのマーケティングアプローチであったと、藤冨は感じました。
おそらく、これは氷山の一角であって、多くのケースが存在していそうです。
研修講師は、ワークの多い講座は、講義時間が短くなるため、楽な仕事ができると考えています。
ペルソナマーケティングは、明確な顧客像をイメージし、その顧客の生活習慣や行動パターン、趣味嗜好に基づいて商品や広告を考えるため、必然的にワークが増えます。
しかし、この研修の大きな欠点があることを知る必要があります。
それは、架空のユーザー像、つまりペルソナの仮説が浮かび上がった時点で、そのユーザー像がどの程度の範囲に存在するのか、定量的・定性的な調査が必要なことです。
作成したペルソナが単なる思い込みでないことを証明するためには調査が必要なのです。
しかし、研修では「思い込み」の段階でマーケティング施策を考えてしまうのです。
ぶっちゃけ時間の無駄です。
正直なところ、これは勉強のための勉強に過ぎません。
とても実践のための訓練とは言えません。
大切な時間と安くない費用をつかって、意味あるのでしょうか?
実際、アラン・クーパー氏も後に「ペルソナは特定の個人を描くのではなく、ユーザーグループを代表する[原型(アーキタイプ)]として機能するもの」とペルソナの概念を修正しています。
つまり「一人のユーザー像」ではなく、「集合体に代表されるユーザー像」なのです。
いずれにせよ、顧客の視点から最適な販売方法や売れる商品を生み出すことは、とても重要です。
ペルソナマーケティングは、その視点を取り入れるための効果的なフレームワークであることは間違いありません。
使えないと感じている人たちは、単に道具の使い方が違うだけです。
道具は使いこなすことで自分自身の役に立つようになるのです。
1回や2回の研修では、とても身につくものではありません。
そして、もし道具自体が間違っていた場合、それは何の役にも立たないでしょう。
真のペルソナマーケティングは、実践の場でしか習得できないかも知れない。
冒頭の社長とお話をしていて、切に感じたことです。
御社では、ペルソナに限らず、ユーザー視点を取り入れるためのアプローチを習慣的に使いこなすカルチャーがありますか?