「先日のコラムを読んで、違和感を覚えました。会社は社員のためのものでしょうか?』
本コラムだけでなく拙著『営業を設計する技術』も愛読してくれている経営者の方から、久しぶりのメールをもらいました。
これからは『社員ファーストの会社』は、競争力を失っていくのでは?という仮説の元のご質問でしたが、藤冨も全く同意見。
社員が自己実現できる環境をつくることが大事と言う主張は、自社にとって有能な社員に対して…であって、ぶら下がり社員まで配慮した考えではありません。
冷たいように聞こえるかも知れませんが、歴史を紐解けば、これは必然として受け入れるしかなさそうです。
永続企業を研究した『ビジョナリーカンパニー』でも、同じ方向に行きたい人だけ同じバスに乗ればよい…と会社のビジョンに共感し、努力できる人以外は、スピンアウトされるような企業が持続的な繁栄を勝ち取っていることを明らかにしました。
この研究成果を真摯に受け止めるなら、誰にでも優しい社員ファーストを歌う企業は競争力を失うとみてとることができます。
戦後の日本を復興させるために尽力した名経営者たちは口を揃えて『雇用を守る』と宣言し、終身雇用を維持してきました。
この素晴らしい人間性と約束を守る胆力は、1mmたりとも疑う余地はありません。
心の底から尊敬しています。
しかし、焼け野原になって需要が右肩上がりに増加する時代と、成熟した現代では企業の置かれた立場は大きく異なります。
ぶら下がり社員まで、雇用し続けないといけない…と言う社会的圧力は、もはや日本企業の競争力を奪っているとしか思えません。
アメリカのように簡単に解雇できる社会は一見すると残酷のように見えますが、努力する人は適性に報われる社会でもあります。
数年前にメルマガに書いた記憶がありますが、近い将来『経営者の逆襲』が起きるのでは…と藤冨は感じていました。
ブラック企業だの、パワハラ だの…義務を果たさず権利ばかりを主張する社員が、あまりにも増殖した反動は必ずくると思ったからです。
それが、今現実味を帯びた環境になりつつあります。
チャットGPTをはじめとした生成AIの出現です。
冒頭の社長さんは、東海地区で50人ほど社長を抱えるシステム会社を経営しています。
生成AIとプログラミングの相性は良く、1人で2〜3人の仕事をこなせる状態に既になりつつあると聞きます。
2019年にチャットGPTを開発したオープンAI社に1400億円も投資をしたマイクロソフト社も、今年になって1万人の解雇を発表し、今後の人材採用も抑制すると発表しました。
仕掛け人の経営判断は、注目に値します。
こうした現実を目の当たりにすると、古代ローマ時代の『パンとサーカス』が再現されつつあるような気がしてなりません。
パンとサーカスとは、他国を侵略し奴隷を獲得してタダ同然の労働力を獲得しながら、自国民には無料で食事(パン)を与え、サーカスなどの娯楽により堕落させ、政治への無関心を誘い・考える能力を奪う政治的な策略です。
奴隷がAIに代わり、パンがベーシックインカムになり、娯楽がメタバースに置き換われば、現代版のパンとサーカスの完成です。
政治や社会に無関心な人々…考える事を放棄した人々が増殖するには、十分過ぎるほどの条件が整いはじめました。
この流れは、止まる事なく加速すると読んで間違いありません。
経営者目線から見ると、この現実を下敷きにして、これからの未来を描く必要があると強く感じています。
AI本格到来時代においては、AIに飲み込まれる人材ではなく、AIを部下のように扱い使いこなせるような「意欲ある人材」が必要です。
意欲ある社員が、AIを使いこなし、会社の売上利益への貢献、生産性向上への寄与に向上心を燃やすことで、競争力の高い企業へと成長させることができます。
あなたが、経営者であれば「AIを本気で社内に取り組む環境づくり」を…
あなたが、社員であれば「AIを部下のように扱えるスキル」を…
共に磨くことが必要なのではないでしょうか。
あなたは、時代の変化に積極的に取り組みますか?
それとも思考すること、行動することを放棄して、時代の流れに彷徨ってみますか?