「電気代、燃料費…製造コストが急騰していまして、利益圧迫要因になりつつあります。値上げを検討したいのですが、売れなくなる事を想像すると踏み切れません。値段設定をどうすべきでしょうか?」
「値決めは経営である」という京セラ創業者の稲盛和夫氏の言葉を考えれば、非常に重要な意思決定要素だと言えます。
冒頭の社長がご懸念される通り、販売数量の減少による利益減が、単品の利益増加額×販売数量を上回らなければ、売上・利益は減少します。
だからと言って、販売数の減少に怯えて、値上げをせずにいれば、当然ながら利益は減少してしまいます。
・値上げによる、売上数量の減少
・価格据え置きによる、利益の減少
どちらのリスクを取るか。
いずれかの経営判断をしなければなりません。
ここで大事な事は、可能性の問題です。
電気代、燃料費、原材料費の上昇は、今起きている現実。
価格が据え置きであれば、ほぼ100%利益は圧迫されます。
しかし、値上げによる販売数量の減少は、あくまでも「懸念」でしかありません。
減少するかも知れないな…という恐怖心だけです。
それならば、恐怖心を克服し、果敢に攻める「社長の前向きな姿勢」でいる方が賢明な選択ではないでしょうか?
社長の前向きで果敢に攻める姿勢は、社内外の人々を動かす原動力になりますから、ここでの選択は「値上げをしても、如何に販売数量を伸ばすか」に意識を集中させたいところです。
では、既存商品の値上げをしても、どうやって販売数量を伸ばすか?
その対策を考える必要があります。
大きく分けて2つの対策があります。
一つ目は、新しい顧客層に商品を売り込む対策を打つこと(新市場開拓戦略)
二つ目は、顧客が受け取る価値を高める対策を打つこと(市場浸透戦略)
一つ目は、新市場開拓戦略の選択です。
以前、藤冨が関与したプロジェクトで「飲食店向け」に使われていた呼び出しベルが、ポツポツと「工場」から引き合いが来ていたので、販売戦略をゼロから設計して、劇的な売上・利益の増加につなげたことがあります。
飲食店と工場では「設備投資の桁」が違います。
また事業規模も違うので、必然的に「1件当たりの販売単価」も変わります。
少ない販売数量で、大幅な利益増が実現できる。
これは「販売効率の向上」を意味しますから、交通費、送料、バックエンドの作業人件費を抑えられ、営業利益の大幅増に繋がっていきます。
二つ目は、市場浸透戦略の実践です。
藤冨が関与するプロジェクトは、新市場開拓であろうが、市場浸透戦略であろうが、提供価値を最大限に高めることからスタートしていきます。
売上アップと言うと、普通すぐに「手段」から入ってしまいがちですが…
SNS広告が効果的、今は動画広告が一番ホット!
などと目先の手段に囚われてはいけません。
魅力的な提供価値を見込客にPRできない限り、どのような「手段」を採用しても、効果は薄いまま。
広告媒体や代理店を儲けさせるだけで、自社の利益には繋がりません。
自社が提供できる価値を、どれだけ魅了的に表現すれば、潜在顧客のハートを掴むことができるのか。
この第一歩が「売上増」につながっていきます。
価値の高め方として、藤冨が好んで採用する手法の1つをご紹介しておきます。
顧客が購入した理由の【背景】や【影響】を浮き彫りにすることです。
【背景】とは、購入したいと思った動機付けに直結しています。
この動機付けの強さによって、「価格」が決定するのです。
例えば、「姿勢が改善される椅子」を販売していたとしましょう。
姿勢を改善したいと思う「背景」に着目したとき…
・長時間のデスクワークで疲れる
・猫背の習慣がついて、肩こりや腰痛につながっている
・姿勢が悪いと、根暗に見えてしまうためか、活力が出なくなる。
など、身体的苦痛やネガティブに感じた強さと克服した時のメリットで交換価値が決まります。
つまり、消費者が購入しても良い…と思う「価格帯」が決定するわけです。
これは、姿勢を改善する椅子に限らず、あらゆるケースに当てはまります。
逆にBtoCよりも、BtoBの方が顕著に現れます。
しかし、この表面上の【購入した背景】よりも、もっと提供価値を魅力的に表現する方法があります。
それが、【影響】です。
影響というとピンとこないかも知れませんので、少し前置きを解説しておきます。
藤冨が高い評価をしている販売手法「SPIN営業法」は、状況、問題、示唆(問題が示唆する影響)、解決、この4つの認識を顧客がイメージしたときに、購買行動を取る…と言うロジックを体系化しています。
この4つの認識のうち、交換価値(価格)に最も影響しているのが、問題が「示唆」する【影響】なのです。
「姿勢が改善される椅子」の例に戻って考えてみます。
猫背になると言う問題が何を示唆しているのか…を浮き彫りにしてみるのです。
・疲れる→趣味をやる気が起きなくなる→毎日がルーティンになり日々の生活に張り合いがなくなる→次第にネガティブになっていく→生き甲斐がない人生に落胆する
・肩こり・腰痛に悩まされる→せっかくの休日なのに「整体」に行かないと辛くなる→整体の費用だけでもバカにならない→美味しいもの食べたり、楽しい趣味に費やすお金が少なくなる
・姿勢が悪くなる→活力が出なくなる→活力ある魅力的な人が寄ってこない→何故か暗い人たちばかりに囲まれている→自分まで暗い生活習慣になってしまう
など、何か一つの問題は、必ず「連想ゲーム」のように様々な影響を示唆しているもの。
この影響範囲を、顧客が認識したときに、「問題の緊急性と深刻さ」に気づき、「解決したい」につながっているのです。
解決した時の、メリットの大きさ。
これが「価格」と直結しています。
これはSPIN営業法の原理を応用したものですが、値付けにもとても効果的に適用することができます。
ただし、大事な事は、「空想」で判断しないことです。
必ず、自社の顧客に聞く必要があります。
・購入した背景は何か?
・その背景にある「問題」は解決されたのか?
・その問題を解決したことで、どのような良いことを実感したか?
この質問は、拙著「無理せず嘘をつかず1億売れた営業トーク」に書いていある「誘い水」と質問技法を駆使することで、かなり深い部分まで本音を聞き出すことが可能になります。
「価値」=「価格」
この公式が成立すると、販売が成功します。
従って、この「価値の魅せ方」が、価格に転嫁できるわけです。
御社は、自社の価値を最大限魅力的に表現する努力をしていますでしょうか?